Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

2020-01-01から1年間の記事一覧

「元彼・元カノ」より一層深く濃い「元彼・元彼」の関係と軋轢

青年期をゲイ / バイとして過ごし、同性との恋愛やセックスを重ねた後、女性と結婚する人は少なくない。それを虚無と捉え、あえて都会から山村に移り一人で暮らしていた若者を、かつて恋人だった男が訪ねてくる。幼い一人娘を連れて。女なんかと結婚してたの…

米露、敵対するはずの潜水艦船員たちのヒリヒリとした感覚。

米ロ、敵対する二国の潜水艦の一方が深海で事故に巻き込まれる。これは罠か!?安全な地上にいる役人たちからの指令と、“人生の大半を水の中で過ごしてきた艦員たち”の“勘”やヒリヒリとした“感覚”、国を超えた“同胞的な想い”──ボタンひとつで核戦争が始まる可…

困難にきちんと対峙しようとする、未熟すぎてそれしか術を知らない少女たち

互いの父と母が不倫関係にある二人の女子高校生。一時は校内で取っ組み合いのケンカをするほどの険悪さだったが、不倫の母の妊娠・出産で双方にとっての“義理の弟”が生まれたことを機に、その関係は徐々に変化していく。その場の快楽だけを求め、困難に対面…

ボリウッド映画から脱し、殺す、殺す、埋める、隠す。

話題のため盲目を装ったピアニストが、招かれて行った大富豪の家で、その富豪が若い妻とその愛人に殺されているのを“目撃”。いや、目撃してはならないのだ、彼は盲目なのだから。大勢の歌と踊りで魅せるボリウッド映画から脱し、脚本と演技の力で勝負した一…

上出来の韓流コメディ・アクション

いささか残念な面々が集まった麻薬捜査班。他班に出し抜かれた挽回にと、悪党組織の真向かいのフライドチキン店を買い取り常時監視を企むが──それぞれ意外な才能を発揮してしまい、チキン店は行列の大繁盛に!『過速スキャンダル』『サニー 永遠の仲間たち』…

ぼくらが子どものころに憧れた近未来そのもの

脳内にAIチップを埋め込むことで超人的サイボーグとなる主人公──SFでは見慣れた設定だが、いや待て、腕に内蔵された銃、全自動で動く部屋や車、拡張された身体能力、頭内に響く的確なチップの声。これは、ぼくらが子どものころに憧れた近未来そのものじゃな…

アメリカの地下にある忘れられた数千kmの地下道──ただただ怖い。

歴史が浅い国のわりに、アメリカの地下には数千kmもの忘れられた地下道がある。破棄された地下鉄網や道路、廃坑などだ。地上には陽射しに包まれた生活がある。しかし地下にもし、封じられた人々の生活があるとしたら……まるで地上の人々の幸せの影にように。…

苦労人は、いつしか歪んだユーモアを持つサイコパスとなった。同情はできない哀しさ。

世紀の悪人は、いかにして悪人となりしか。アメコミの常で各キャラの出自は何度も違う形で描かれてきたが、バットマンの宿敵ジョーカーについては、これがもっともダーク。堕ちていったのに、大きな要因などなかった。病の母を介護しつつ芸人を目指し、ピエ…

感情を持たない欠陥品だと気づいた少女は、“優等生”の友人にセラピーを受けることに……しかしそこにはより深い闇が。

自分が“怒り”や“悲しみ”という感情を持たない欠陥品だと気づいた少女は、周囲の感情をテクニックで模倣することで調和を保とうとしていた。 精神科医たちは助けにはならない。挙げ句、同級の“優等生”に友人としてセラピーを受けることに。 しかし、歪みが外…

男と女、一度愛の不均衡が生まれると、なかなか本人らには是正できない

男は女を雑に扱う。女はそれでも一途に好きでいる。 一度愛の不均衡が生まれると、なかなか本人たちには是正できない。 “恋人”という関係の、実際の惰性や曖昧さを淡々と、しかしある意味容赦なく描写する。 小説を原作に持つせいか人物背景などを作り込みす…

もろもろブッ込んだB級覚悟の前作にさらにマッドなSF色を大量添加

B級覚悟なのに意外にもヒットした前作のさっそくの続編。 もろもろブッ込んだ前作にさらにマッドなSF色を大量添加、ただでさえループしている縦の時間軸に、方々に分岐する並行世界を横軸として織り込み、登場人物も観る方も大混乱。そのカオスが楽しい。 刺…

「B級上等!」なのによくまとまっていて◎

ホラー × サスペンス × SF × 学園ロマンスと、「B級上等!」的にブッ込んできたわりに、よくまとまっていて楽しい。ある朝見知らぬ男子学生のベッドで目覚めたツリーは、二日酔いを呪いつつ最悪の一日をすごし、最後に仮面を被った何者かに殺され──たはずが…

耐えて耐えて耐えたあと、ラストの法廷スピーチは圧巻。

たった50年前の米国、名門法科大を首席で卒業したルースだが、“女は弁護士に向かない”とすべて事務所で門前払い。“差別ではない、区別だ”“女は家庭を守るべき”──今でも身近に聞く言葉。だが権利の主張に失敗は致命的、失敗は前例となってかえって行く手を阻…

「虎の威を借る狐」の寓話を映画化したのかと思いきや、実話

第二次大戦末期のドイツ軍。 脱走した若い兵士が、道端で将校の軍服を見つける。それを着た彼を本物の将校と勘違いして媚び諂う者が集るようになり、権力に酔う若者は「即決裁判所」をも司るように。 裏切り者、売国奴と見做した同朋を次々とを処刑し始めた…