Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

2018-01-01から1年間の記事一覧

アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル

これは実話でなければ“絵空事にすぎる”と脚本をボツにされるパターン。 94年、リレハンメル五輪の選考会となる全米フィギュア選手権で、練習を終えた大本命のナンシー・ケリガンが何者かに襲撃され、膝を殴打されて大会を欠場。一方トーニャは優勝を果たした…

ウインド・リバー

白人により極寒の居留地に押し込まれてくらす米国先住民。ある雪の深い夜に一人の少女が裸同然で雪道を逃げ、冷たくなって発見される。 死んだ少女は実は他にもいたが、訪れたのはFBIの若い女性捜査官ひとり──。 雪の強い閉塞感。社会からの隔絶感。そこでは…

彼の見つめる先に

まだ女の子のほうが少し背が高い、思春期の真ん中あたり。 盲目の少年とその幼馴染の少女の関係がひとつ前に進もうとしていたころ、その間に割り込む形で、ひとりの転校生がやってきた。 親に内緒のパーティや真夜中のプール、初めてのキスへの期待や不安。 …

女は二度決断する

家族を理不尽な理由で殺されたら、自分はどういう行動に出るか──誰しも考えたことがあるのではないか。 舞台はドイツ、ハンブルク。主人公の女性はトルコ系移民である夫と結婚し、6歳の息子とともに幸せな生活を送っていた。しかし外国人排斥を正義だと信じ…

ワンダー 君は太陽

奇形を持って生まれ、顔に数々の深い手術痕を持つ少年、オギー。 人前に出ることをはばかって家庭学習を続けていたが、母親の決心により、彼は一般の小学校に編入する。 想像どおりゾンビだ怪物だと色眼鏡で見られる本人の心情は見ていて身を切られるようだ…

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法

タイトルの“Project”とは貧困層向け共同住宅の意味で、フロリダ・ディズニー・ワールド近辺の安モーテル街が舞台。無邪気というよりは邪気満々の小憎たらしい子どもたちの目を通して、小さなズレが積み重なる米国社会を見て取らせる。艷やかなのにどこか色褪…

君の名前で僕を呼んで

頭や手足を欠損したギリシャ裸像がかえって官能的に映るように、けっして結実しない恋はその不完全さゆえに美しく見える。1983年の夏、学者の父と北イタリアの避暑地を訪れた17歳の少年。父が呼び寄せた24歳の大学院生と生活をともにするうち、少年は自分の…

娼年

冒頭からの激しいセックス描写におののくが、しだいにその激しさは主人公が抱える空虚の裏返しだと分かる。おそらくは、無性愛者が持つ空虚──石田衣良が原作を出した2001年には無性愛という日本語すらなかったはずだが。それを見透かした女の誘いで、リョウ…

ジーサンズ はじめての強盗

長年の工場勤めを終え、隠居したはずのジーサン3人組。身勝手な企業や銀行の都合で年金は打ち切り、家まで失いそうに。3人は意を決し、なんと銀行強盗に挑むことに──。主演の3人組がモーガン・フリーマン、マイケル・ケイン、アラン・アーキンと全員オスカー…

ザ・マミー / 呪われた砂漠の王女

ロンドンで十字軍の巨大な地下墓地が、中東では古代エジプト王女の呪われたミイラが発見され──。米国ではホラーからコメディまでなぜかここ何十年もゾンビ映画の人気が続いているが、その流れをトム・クルーズがオレ様流にアレンジ、インディ・ジョーンズ的…

この世界の片隅に

“男目線”で怒号や爆撃音を響かせる戦争映画とは異なり、“女こども”の目線でその後ろに地続きにあった人々の生活を描いている点で、『火垂るの墓』を思い重ねる人も多いだろう。絵を描くことだけが得意でどこかボンヤリしており、18歳で広島から軍港の街・呉…

マンチェスター・バイ・ザ・シー

人は本当に悲しいとき、泣くまでに時間がかかる。兄の死により甥の後見人に指名され、事情があって離れていた故郷に戻る男。甥である少年はまだ十代で、バンド活動や女の子にうつつを抜かし、父の死に傷ついてい様子はない──が、実はそれはまだ幼すぎて、悲…

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス

間違ってもアベンジャーズやX-MENには入れない、マーベル戦隊オチャラケ部門の荒くれ者チーム。その一員、アライグマのスーパーヒーロー(!)がちょっとした盗みを働いたことから、一同はうっかり銀河を破滅から救うハメに──。リアリティなどはなから無視し…

エイミー、エイミー、エイミー!

米国の人気コメディエンヌ、エイミー・シューマーが製作・脚本、さらには自身を投影した同名の主人公エイミー役を演じる。三十を過ぎて恋人はいても一夜限りの男遊びは別腹の彼女が、ある外科医との出会いで奔放な自分を反省するが──。けっこうな激しさのSEX…

愚行録

週刊誌記者の主人公(妻夫木聡)は、幼児虐待による妹(満島ひかり)の逮捕から目をそらすように、一年前に起こったエリート一家惨殺事件の掘り起こし取材に没頭していた。見栄や嘘、嫉妬や階級意識など、誰もが日々積み重ねている“愚行”を淡々と描きつつ、…

ゴースト・イン・ザ・シェル

アニメ、小説、ゲームとさまざまな派生作品を生み出してきた95年の士郎正宗のマンガ『攻殻機動隊』のハリウッド流解釈。人工パーツの発達でロボットと人間の境目すら危うくなってきた未来、政府は軍事目的で人間の脳を義体に移植する技術を開発していた──と…

パッセンジャー

5000人の乗客が巨大宇宙船の中で人工冬眠し、120年をかけて別の惑星への移住を試みる。しかし何かの故障か、予定より90年も早く一人の男が、続いてまた一人の若い女が目を覚ましてしまう。このままでは二人きり、船の中で残り数十年の人生を終えることに──!…

SING / シング

3DCGでデフォルメされた、どこか人間くさい動物たちのミュージック・コメディ。知ってる歌が次々出てくる! 破産寸前の劇場支配人が、素人シンガーたちを集めて再起を図るものの、手違いと勘違いの連続で──。ゲームセンターの“ガチャポン”を思い出した。いろ…

マリアンヌ

戦時中のモロッコで偽装夫婦となった二人の諜報員が、ナチス要人の暗殺という使命を果たして生き延び、互いに惹かれ、逃れ出たロンドンで本物の夫婦となる。空襲のさなか、愛娘も授かった。しかしその幸福は、夫が上層部から受けた通告で崩れかける──「君の…

アイヒマンの後継者

何も知らない被験者に他人に電気ショックを与える課題を出し、“良識ある人間がなぜ残虐行為に走るのか”“人はいかに権威に服従するか”を検証する、60年代の有名な社会心理学の実験。そのほか、今では倫理的に許されそうもない実験の数々をおりまぜ、ある科学…

手紙は憶えている

目を覚ますたびに妻の姿を探し、もう亡くなっていることを知らされて落胆する──認知症を患って施設で暮らす90歳の老人。ある日彼は友人に一通の手紙を託された(手紙なら、記憶を失ってもまた思い出せる)。記されていたのは、彼らがアウシュビッツで家族を…

マダム・フローレンス! 夢見るふたり

メリル・ストリープとヒュー・グラント、名優2人が小喜劇に挑む。オペラの殿堂カーネギーホールで“伝説の歌姫”となった実在の貴婦人、マダム・フローレンス。その歌声はどこか不安定で、音程とリズムに難があり、声域も狭く──要するに彼女はド音痴だった!(…

湯を沸かすほどの熱い愛

一年前に家出した夫を待ち続け、娘とふたり静かにくらす妻が、突然末期ガンの宣告を受ける。いくつかの“死ぬまでにやるべきこと”を決めて実行する彼女と、さまざまな人との出会いや再会──。監督は自主映画『チチを撮りに』で国際的な評価を得た中野量太。物…

永い言い訳

すでに邦画界での評価を固めた西川美和が執筆、直木賞候補となった小説をみずからの脚本・監督で映画化。人としても夫としても最低の部類に入る小説家の男が主人公であるあたり、師匠筋に当たる是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』と共通する。が、是枝が“こ…

92歳のパリジェンヌ

元フランス首相の母親で、尊厳死を求めて戦った女性の実話が原作。温かい家族に恵まれつつも、老いによって“もう自分でできなくなったこと”をひとつずつ数え、「まだ気力のあるうちに人生を終わらせたい」という92歳の老婦人。若い頃から社会活動家として強…

ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期

ちょっとダメなアラサー女子を描いて全世界の女性を共感の渦に巻き込んだ初作から早15年。11年ぶりのシリーズ3作目。気がつけば彼女も43歳、いまだ独身だ。ひとりで寂しい誕生日を迎えたかと思いきや、偶然出会ったハンサムなIT実業家と、忘れられない元彼の…

お父さんと伊藤さん

フリーターの娘(34歳)とその彼氏(バツイチ54歳)。2人が暮らす古いアパートに、突然娘の父親(74歳)が転がり込んでくる。ちょうど20歳ずつ離れた3人の共同生活は当然ぎこちなく小さな衝突だらけ――。『百万円と苦虫女』のタナダユキ監督が中澤日菜子の同…

ハドソン川の奇跡

2009年1月、乗員・乗客155人を乗せたエアバスがNYの空港を発った直後、両エンジンが大破、制御不能に。墜落と全員の死亡さえ覚悟された中、機長は独断でハドソン川への緊急着水を決行、そこで奇跡が起こった──と、ここまでは日本でも大きく報じられた美談。…

オマールの壁

未だ混乱の最中にあり、ただ穏やかな暮らしを望むためだけにも銃や暴力が必要な中東・パレスチナ。親友の妹を想いつつ、パン作りに精を出して真面目に生きている若者ですら、壁に囲まれたその街から逃れ出ることはできない。誰かを信じると裏切られ、信じな…

ミモザの島に消えた母

西フランスの慎ましく美しい景色の中にあった、おぞましい人間の業。人生も後半にさしかかった男が、幼い頃に亡くした母を想う。母はただ「海で溺れて死んだ」とだけ聞かされ育った。躊躇する妹を巻き込み、故郷の島に戻ってゆっくりと過去を掘り起こす男。…