Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

2018-01-01から1年間の記事一覧

ニュースの真相

今や“歴代最低の大統領”とも評されるW・ブッシュ。二期目を目指し選挙戦に挑んでいた2004年、CBSニュースの報道陣が彼の軍歴詐称疑惑、コネによる兵役逃れをスクープした。事実であれば、国民の反発は必至。追い詰めるジャーナリストたちの気迫、しかし彼ら…

ヤング・アダルト・ニューヨーク

『イカとクジラ』のノア・バームバックが監督・脚本のシニカル・コメディ。売れないドキュメンタリー監督の夫と、夫よりは腕の立つプロデューサーの妻。子は授からなかったもののセックスもあり、それなりに充実した日々を送っている(つもりの)四十代のふ…

X-MEN:アポカリプス

シリーズ物につきものの“ムチャやっちゃった過去作とどう折り合いをつけるか問題”は前作『フューチャー&パスト』で過去をリセットしたことによりクリア、舞台は“人類とミュータントが共存する1980年代”に(時代感の再現がお見事)。とはいえ隠された差別は残…

或る終焉

『父の秘密』で世界的な評価を得たメキシコの新鋭、マイケル・フランコ監督の新作。終末期患者のケアと看取りを繰り返す看護師(ティム・ロス)。息子の死をきっかけに家族と疎遠になっている彼は、患者と親密な関係を築くことを心の拠りどころにしていたが─…

セトウツミ

わはは、なんでこんなもん作ろうと思うてんやろ。天然で何事にもやる気なさげな瀬戸と、秀才で何を考えているか見えてこない内海、大阪は堺市の男子高校生ふたりの放課後ヒマつぶしトーク……それだけで終始一貫75分。川縁に座り体温低めで続く意味のない会話…

シークレット・アイズ

犯人は特定されたのに、政治的な理由から封印された13年前の殺人事件。新たな手がかりが浮かび、娘を殺された女と元同僚の男女がFBIで再会するが──。アカデミー外国語賞を受賞したアルゼンチンのサスペンス映画『瞳の奥の秘密』をハリウッド流豪華キャストで…

シビル・ウォー / キャプテン・アメリカ

タイトルこそ『キャプテン・アメリカ』だが実質的にはヒーロー総出演の『アベンジャーズ』で、その内部分裂(特にアイアンマンとの軋轢)を描く。今回から軍陣に加わったちょっと間抜けなアントマン、ソニーとの権利関係を乗り越えて登場する少年スパイダー…

10 クローバーフィールド・レーン

交通事故に遭った女が目覚めたのは閉ざされた地下シェルターの一室。脚は鎖で壁に繋がれ、ほかにいるのは見知らぬ男二人だけ。「異星人が攻めてきた」という男の言葉は、虚言? 狂信? 真実? 『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で壮大な宇宙戦争史の一端…

モヒカン故郷に帰る

東京でデス・メタルバンドを組んでいた男が、恋人の妊娠をきっかけに故郷・広島の小島に帰る。広島といえば矢沢永吉、広島といえばカープ。島に住む両親の熱狂ぶりが、瀬戸内の静かな情景とアンバランスでおかしい。柄本明やもたいまさこという芸達者の中で…

ズートピア

肉食・草食、大型・小型の動物たちがともにくらす大都会“ズートピア”。夢を信じる新米ウサギ婦警と、夢を捨てたキツネの詐欺師が、なぜかタッグを組んで街中を走り回ることに──。現代社会のあれこれを戯画化して盛り込んでいるのが楽しい。“努力し続ければ夢…

さざなみ

『ウィークエンド』で青年同士の一夜の愛の切なさと絆を描いたアンドリュー・ヘイ監督が、本作では長年連れ添った老夫妻の愛の姿を静かに表現。結婚45周年パーティの5日前、夫の元に一通の手紙が届く。夫は“昔のこと”を回顧する。妻の胸の内に小さなささくれ…

人生は小説よりも奇なり

39年間連れ添った爺ちゃん二人が、周囲の祝福の中、結婚した。同性婚もここまで社会に馴染んでいるのか米国は──と思えばやはりそうでもなく、カトリック系の学校に勤めていた片方がそれで職を失い、ついで家も失う。とりあえず甥や友人の家で別々に居候を始…

マン・アップ! 60億分の1のサイテーな恋のはじまり

馬鹿をやらせたら天才的なサイモン・ペッグが主演・脚本・製作総指揮の、たった一夜のラヴ・コメディ。いろいろとこじらせてくすぶっている34の独身女と40のバツ一男が、相手を取り違えたまま初デートして、一瞬は意気投合するものの数時間後には罵り合い、…

ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります

想い、偲び、察する──自己主張の国アメリカには不似合いな言葉が思い浮かぶ。老い始めた夫婦(モーガン・フリーマン&ダイアン・キートン)が40年間を過ごした5階建てのアパートメントは、見晴らしはいいが階段がきつい。やっと売却を決意し、内覧会を開く夫…

幸せをつかむ歌

メリル・ストリープ物にハズレなし。彼女の経歴の中では小粒な扱いだろうけれど。いまだ80年代を引きずる破産寸前のロック・シンガーが、娘の離婚問題と自殺未遂をきっかけに、自分が捨てた昔の家族と再会し──。己に正直すぎる生き方の代償と結実。かのニー…

エージェント・ウルトラ

ザ・中二病映画。何もできずダラダラと日々を送る若者マイクは、実はあまりの危険さにその能力と記憶を封印されたCIAの殺戮者だった! 50〜60年代のCIAの洗脳実験“MKウルトラ計画”をモチーフに、周囲の日用品を即興で利用したアクションで魅せる。主演は『ソ…

ハッピーエンドの選び方

イスラエルの老人ホームで暮らす、手先の器用な発明家。妻は、認知症の兆候に怯えつつも敬遠な信仰心を持ち続けている。また、末期ガンで苦しむ男と、彼を苦しませたくない妻。奇妙な三角関係を秘密にしているカップル。元獣医や元警官。彼らが自発的に、あ…

スティーブ・ジョブズ

ジョブズが携帯音楽プレイヤーを出すと聞いたとき、古くからのAppleファンでさえ首をかしげたものだ。既存製品のスタイリッシュな改良品に過ぎなかったからだ。そのiPodがのちに世界を席巻するiPhoneへの布石だったのは、今では皆が知ること。本作はそんな彼…

オデッセイ

“近未来SF”というより“近未来に起こった事件を事後にまとめた科学ドキュメンタリー”として観るのがよい。そこには陰謀も裏切りもドンデン返しもない。事故で火星に置き去りにされた植物学者が、限られた資材・資源・知識を駆使してジャガイモを育て、地球と…

マルガリータで乾杯を!

“障害者の性”はこの十年ほどで日本でもようやく議論されるようになってきたテーマ。脳性麻痺で言葉も体も不自由な19歳の少女が、歌を作り、恋をし、セックスをする。その最大の理解者は、母親。インドから米国への留学にも賛成、自らも付き添うほど。が、そ…

マイ・ファニー・レディ

1973年、33歳の若さで名作『ペーパー・ムーン』を世に出したボグダノヴィッチ監督、その後この紙幅では書き表せない数奇な人生を歩み、13年ぶりに監督したのが本作(脚本も)。高級娼婦が出自であることをあっけらかんと話す新進女優の回顧の形で、演劇・映…

007 スペクター

『007』シリーズの24作目、6代目ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグ作品としては4作目。「00部門は時代遅れで廃止すべき」とする堅物のMI5新責任者のせいで孤立無援に陥る中、メキシコ、ローマ、ロンドン、モロッコ、東京、南アと目まぐるしく動きなが…

SAINT LAURENT / サンローラン

21歳の若さでディオールの後を継ぎ、“モンドリアン・ルック”などで時代を革新し続けた“モードの帝王”イヴ・サンローラン、その絶頂期の約10年間に焦点を当て、喝采の裏にあった孤独を描く。深掘りしたい人は、公私をともにした男性パートナーのインタビュー…

パパが遺した物語

25年前。一度は名声を獲得した作家が自分の起こした交通事故で妻を失い、長期のリハビリ中に愛する7歳の娘とも引き離される。負が負を呼び、周囲の厚意がまた負を呼ぶという負の連鎖。しかし父娘は諦めることなく、暗闇の中にか細い光の筋を探して──。『幸せ…

サバイバー

主人公、テロ対策専門家としてロンドンに派遣された米国外交官役に『バイオハザード』シリーズのミラ・ジョヴォヴィッチ。対する悪役、伝説のテロリスト“時計屋”として『007』シリーズのピアース・ブロスナン。配役を聞いただけで気が急くようなサスペンス・…

彼は秘密の女ともだち

娘を産んだ直後に病で逝った女性を軸に、その生涯の親友だった主人公と、残された“夫”の交流を描く。ただ“夫”は、亡き妻のワンピースをまとい、ウィッグと化粧で女装して赤ん坊をあやしていた──“自分はゲイではないが、女として扱われたい”と。当初、激しい…

ジュラシック・ワールド

93年の“ジュラシック・パーク”の大惨劇から22年。懲りない人間は同じ島に“ワールド”を建設、今では大人気のリゾート地に。恐竜を単なるビジネス・アイテムと捉える者、敬意を持ち絆を結ぼうとする者、密かに軍事兵器化を狙う者など、運営側の思惑も交錯し──…

人生スイッチ

スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル製作のアルゼンチン映画。不意に窮地に立たされた男女を描くコメディ……との前評判だが、想像よりブラックでスパイシー。オムニバス6編で描かれるのは、乗客全員がある男の恨みを買っていると発覚した航空機内の混乱。不条…

アリスのままで

アリスはまだ50歳の優秀な言語学者。物忘れが多くなり受診した神経科で、自分がその病にかかっていることを知った。若年性アルツハイマー。若くして老い、日々記憶の欠片を失っていく恐怖。自分が朽ちていくのを傍観するしかない絶望。「癌ならよかった。癌…

海街diary

鎌倉の大きな古家に住む三姉妹のもとに、かつて彼女らを捨てた父親の訃報が届く。その葬儀の後、長女が衝動的に、初対面で中学生の“四女”に「鎌倉で一緒に暮らさない?」と誘うことから物語は始まる──腹違いの妹、不倫で自分たちの父を奪った女の娘に。 しっ…