Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

2018-01-01から1年間の記事一覧

インサイド・ヘッド

“感情”や“記憶”を繊細なCGで具現化、絵本のような世界を作り上げているが、「人の成長には悲しみや怒りも必要」なんて哲学的なテーマが、子どもに分かるのかピクサー。舞台は誕生直後の少女の心の中。“喜び”や“悲しみ”が擬人化され、少女が成長し、興味や特…

アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン

元武器商人で今は改心した大富豪“アイアンマン”をリーダーに、“超人ハルク”や“マイティ・ソー”“キャプテン・アメリカ”などマーベル・コミック社のアメコミ・ヒーローたちの世界を重ね合わせ、豪華チームを組ませて巨悪と闘うシリーズの第2弾。今回は敵側の特…

あの日の声を探して

冒頭、少年が赤ん坊を抱いてあやしつつ、両親が銃殺されるのを窓越しに眺めている。99年、ロシアからの独立を求めるチェチェンの紛争。少年は姉を残して逃げ、途中で赤子の弟を捨てる。捨てるしかなかった。そして何もしゃべれなくなる。あるEUの無力な女職…

マジック・イン・ムーンライト

尊大で皮肉屋の有名奇術師が、友人に頼まれる。“ある富豪一家に霊媒師を名乗る小娘が取り入り、心酔した一家は全財産を注ぎ込みかねない。そうなる前に彼女のトリックを見破ってほしい”──出向くと、確かに娘はいきなり彼の素性や行動を言い当てた。男は最初…

アドバンスト・スタイル そのファッションが、人生

思うままに着飾り、背筋を伸ばしてN.Y.の街を闊歩する老マダムたちのドキュメンタリー。八十代、九十代でも「若く見えるより魅力的に見えたいの」と、自分でデザインした色鮮やかな洋服を身につけ、自分の髪で作った羽のような付け睫毛でシャンソンを歌う。…

ファーゴ

アカデミー脚本賞、カンヌ監督賞を獲ったコーエン兄弟の名作『ファーゴ』が、 世界観、舞台をそのままに新たなストーリーでTVドラマ(全10話)として復活。極寒のミネソタ州の小さな町で起こる連続殺人事件。どこかまぬけな、悪人でもない人たちのちょっとし…

パレードへようこそ

炭坑夫の労働組合と、ゲイ、レズビアン。前者はサッチャー首相の強硬政策で廃坑を迫られ町全体が困窮し、後者は敬虔なキリスト教徒から忌み嫌われている。接点のないはずの二者が、世間の偏見や無理解に対して共闘し始めた――。舞台は英国、84年。カルチャー…

ワイルド・スピード SKY MISSION

アメリカ人の大好物、ド派手な銃撃戦とカー・アクションのシリーズ7作目。一応“家族愛”や“仲間の絆”を下敷きにしてあるが、やはり見所8割は車と爆破と肉弾戦。マニア垂涎の歴史的名車を惜しげもなく潰し、燃やし、空から落とす。出てくるのはどいつもこいつ…

ソロモンの偽証

法廷物、陪審員物に名作は多いものの、未熟な中学生らが自分たちのために動いて開いた“学校内法廷”というのは、作者にとっても観客にとっても挑発的な試み。ある男子生徒の“飛び降り自殺”から始まり、イジメや家庭問題、そしてまたひとりの女子生徒の事故死…

博士と彼女のセオリー

“車椅子の天才科学者”として誰もが知るホーキング博士の、若き日の恋や学友との明るい生活から、徐々に難病ALSに冒されていくさまを描く。彼はまず手足の自由を、そして次第に言葉をさえも失ってしまう。一時、その“世界最高の頭脳”は動かない殻のような体の…

ブルックリンの恋人たち

ミュージシャンを目指し路上で歌う生活をしていた弟が、事故で昏睡状態に陥る。それまで長く仲違いしていた姉は、弟の痕跡を追おうと、弟が録音した歌を聴き、弟が好きだった歌手に会い──いつしかその歌手が心の支えとなって──。全編に挿入される“商業化には…

きっと、星のせいじゃない。

肺癌ステージ4の少女が、骨肉腫で右足を失った青年とふつうに出会い、ふつうに恋をする。ふつうの言葉でたくさんの話をするが、彼らは泣きも喚きもしない。傍目には重い内容を、ときには冗談にすらしてしまう。若くしてふたりとも、自分たちに未来がないこと…

毛皮のヴィーナス

ロマン・ポランスキー監督による完全な二人芝居。オーディションに遅れてきた下品で我が儘な女優。ただただ早く帰りたい演出家。しかし強引に演技を始めると、彼女はすべての台詞をそらんじており、19世紀の教養ある貴婦人そのものに。作品に対する独自の解…

シェフ 三ツ星フードトラック始めました

料理の腕はピカイチだが雇われ人としては不器用なシェフ。グルメ評論家に悪口を書かれたことに腹を立て、Twitterの仕組みを知らないままに抗議の悪態を送ったら、それが拡散され、結局、地位もプライドも失う。失意の中、オンボロの屋台トラックを買った彼は…

おやすみなさいを言いたくて

あらかじめ葬儀を済ませた後、体に爆弾を巻き付け、自爆テロに出向く若いムスリムの娘。それに同行取材する戦場写真家の女。冒頭シーンは衝撃的だ。前者は当然爆死し、後者は怪我を負いつつ生き残った。母国で待つのは、妻の、母の死におびえ続ける夫や娘。…

滝を見に行く

「紅葉の山道を散策し、見事な大滝へ。夜は温泉、お一人様3万円」というバス・ツアーに集まったのは7人の「ふつうのおばちゃん」。本当にふつうのおばちゃんなので、途中で大事件が起こったりはしない。ただ7人は道に迷い、山中で一泊を過ごす。この非常時、…

ベイマックス

ハマダ兄弟はロボット工学の若き天才。実直な兄は人間を癒やすケア・ロボット「ベイマックス」を大学で開発中。やんちゃな弟は、違法の戦闘ロボット賭博に夢中。しかし兄が死に、その裏に何かあると知った弟は──。ストーリーや映像は、アカデミー賞のお墨付…

ザ・ゲスト

戦場で息子を失った一家を、ある青年が訪ねてくる。「息子さんの戦友で、家族への伝言を託された」と。多くは話さない紳士的な態度。青く魅力的な目に、鍛えられた体。突然の来訪者を怪しんでいた家族は、いつしか彼に惹かれ、まるで“洗脳”のように信頼する…

物語る私たち

母ダイアンは、太陽のように無邪気で奔放な女優。79年、5人の子を残して早逝。当時11歳の末娘がサラ・ポーリーで、『死ぬまでにしたい10のこと』では女優、昨今は監督としても成功。本作は、サラが母の実像を知ろうと周囲を訪ね歩いた証言の集積。各々の記憶…

寄生獣

人間の脳に寄生して乗っ取り、他人を喰らう地球外生物(?)が、ある高校生の右手だけに共存することになり──。一見チープなグロCG映画だが、人間と異形物が不本意ながらタッグを組む“バディ物”にはときどき名作が生まれる(例:「ドラえもん」「うしおとと…

インターステラー

そう遠くない未来。地上には砂嵐が吹き荒れ、人には住みにくい環境に。“実は地球の終焉が近い”と知られれば、それこそパニックで人類は自滅する。学校では「アポロ月面着陸なんて大ウソ」「アインシュタインの相対性理論もウソ」と教え、宇宙への関心を逸ら…

ランナーランナー

オンライン・カジノで全財産をスッてしまった名門大学の学生がそのシステムの不正操作を見抜き、その証拠を持ってカジノ王のもとに乗り込む。が、その意気と才能を買われ、逆にペテン師側に仲間入り。そこにFBIが登場、学生を拉致して、組織撲滅のためスパイ…

もしも君に恋したら

小品ながらウェルメイドなラブ・ストーリー。失恋したばかりの元医学生(D・ラドクリフ)がバーで偶然知り合った女子は、超生真面目で彼氏持ち。長年付き合った彼氏と添い遂げるつもりでおり、主人公にはなびこうとしない。主人公も堅物で、口説くこともでき…

ゴーン・ガール

そこそこ親しくなった相手の横で、ふと「この人、虚言癖がある」と気づいたときの背中をつっと冷たい汗が走る感覚、経験があるだろうか。概して相手は、快活で魅力的な女性だ。頭の回転も速く、場の空気を読み、有名人の知己も多く、周囲には楽しいことが溢…

イコライザー

“デンゼル・ワシントン主演のアクション映画”という時点で中身の想像はつくだろうが、期待は裏切らない。昼間はホームセンターで真面目に働き、夜は本を読んで静かに過ごすその男は、実は元CIA局員。ある夜バーで若い娼婦と出会ったことから、ロシアン・マフ…

あなたとのキスまでの距離

かつてチェロ奏者を目指していた男が夢を諦めたのは、家族のため。高校の音楽教師という地味な仕事にも、妻と娘との平穏な生活にも、不服はない。だが英国からホームステイに来たひとりの少女により、男は自分の中の抑圧に気づく。少女は美しく、そしてピア…

MOZU Season2 〜幻の翼〜

TBS×WOWOW共同制作、警視庁内部を主な舞台とした重厚な犯罪ドラマの第二シリーズ(全5話)。先に第一弾(全10話)鑑賞が必須、なぜなら人間関係も物語も容赦なく緻密で、観る側におもねることなどしないから。画面上では、誰もが遠慮なく煙草を吸う。各所へ…

余命90分の男

役者の私生活と作品とは分けて考えるべきだろう。だが本品の場合、余韻は複雑だ。かつてはよき父、よき夫だった男が、長男の死を機に、怒りと不満に支配された生活を送るように。が、自分が重病で余命わずかだと知った瞬間、男は病院を飛び出し、ないがしろ…

ジゴロ・イン・ニューヨーク

スパイク・リーやコーエン兄弟作品の常連俳優、ジョン・タトゥーロが書いた“冴えないジゴロ”の脚本に、あのウディ・アレンが惚れ込んで、W主演に(アレンが他人の監督作に出るのは14年ぶりとか)。舞台はN.Y.の下町。金のないジイさんが、不器用で定職もない…

趣味の演芸/清水ミチコ

CD

キャッチ・コピーは“趣味をこじらせ10枚目”で、タイトルが『趣味の演芸』。「これは素人芸の延長で、悪気はないんですよー」と言い訳した上で、悪気ありまくりのモノマネの数々。世の中をナメている(笑)。もはや伝統芸のユーミソや矢野顕子らの安定感に甘…