Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

あの日の声を探して

冒頭、少年が赤ん坊を抱いてあやしつつ、両親が銃殺されるのを窓越しに眺めている。99年、ロシアからの独立を求めるチェチェンの紛争。少年は姉を残して逃げ、途中で赤子の弟を捨てる。捨てるしかなかった。そして何もしゃべれなくなる。あるEUの無力な女職員が、贖罪のように少年を拾う。また別に、ある青年が路上で拘束、強要され、ロシア兵として教育される。見事に、無残に。姉弟の再会。兵士として戦場に出る青年。分からない。が、これは現実である。我々がすべきは“感涙”ではない。“現実を知ること”だ。

【CDジャーナル 2015年12月号掲載】