Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

幸せをつかむ歌

メリル・ストリープ物にハズレなし。彼女の経歴の中では小粒な扱いだろうけれど。いまだ80年代を引きずる破産寸前のロック・シンガーが、娘の離婚問題と自殺未遂をきっかけに、自分が捨てた昔の家族と再会し──。己に正直すぎる生き方の代償と結実。かのニー…

エージェント・ウルトラ

ザ・中二病映画。何もできずダラダラと日々を送る若者マイクは、実はあまりの危険さにその能力と記憶を封印されたCIAの殺戮者だった! 50〜60年代のCIAの洗脳実験“MKウルトラ計画”をモチーフに、周囲の日用品を即興で利用したアクションで魅せる。主演は『ソ…

ハッピーエンドの選び方

イスラエルの老人ホームで暮らす、手先の器用な発明家。妻は、認知症の兆候に怯えつつも敬遠な信仰心を持ち続けている。また、末期ガンで苦しむ男と、彼を苦しませたくない妻。奇妙な三角関係を秘密にしているカップル。元獣医や元警官。彼らが自発的に、あ…

スティーブ・ジョブズ

ジョブズが携帯音楽プレイヤーを出すと聞いたとき、古くからのAppleファンでさえ首をかしげたものだ。既存製品のスタイリッシュな改良品に過ぎなかったからだ。そのiPodがのちに世界を席巻するiPhoneへの布石だったのは、今では皆が知ること。本作はそんな彼…

オデッセイ

“近未来SF”というより“近未来に起こった事件を事後にまとめた科学ドキュメンタリー”として観るのがよい。そこには陰謀も裏切りもドンデン返しもない。事故で火星に置き去りにされた植物学者が、限られた資材・資源・知識を駆使してジャガイモを育て、地球と…

マルガリータで乾杯を!

“障害者の性”はこの十年ほどで日本でもようやく議論されるようになってきたテーマ。脳性麻痺で言葉も体も不自由な19歳の少女が、歌を作り、恋をし、セックスをする。その最大の理解者は、母親。インドから米国への留学にも賛成、自らも付き添うほど。が、そ…

マイ・ファニー・レディ

1973年、33歳の若さで名作『ペーパー・ムーン』を世に出したボグダノヴィッチ監督、その後この紙幅では書き表せない数奇な人生を歩み、13年ぶりに監督したのが本作(脚本も)。高級娼婦が出自であることをあっけらかんと話す新進女優の回顧の形で、演劇・映…

007 スペクター

『007』シリーズの24作目、6代目ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグ作品としては4作目。「00部門は時代遅れで廃止すべき」とする堅物のMI5新責任者のせいで孤立無援に陥る中、メキシコ、ローマ、ロンドン、モロッコ、東京、南アと目まぐるしく動きなが…

SAINT LAURENT / サンローラン

21歳の若さでディオールの後を継ぎ、“モンドリアン・ルック”などで時代を革新し続けた“モードの帝王”イヴ・サンローラン、その絶頂期の約10年間に焦点を当て、喝采の裏にあった孤独を描く。深掘りしたい人は、公私をともにした男性パートナーのインタビュー…

パパが遺した物語

25年前。一度は名声を獲得した作家が自分の起こした交通事故で妻を失い、長期のリハビリ中に愛する7歳の娘とも引き離される。負が負を呼び、周囲の厚意がまた負を呼ぶという負の連鎖。しかし父娘は諦めることなく、暗闇の中にか細い光の筋を探して──。『幸せ…

サバイバー

主人公、テロ対策専門家としてロンドンに派遣された米国外交官役に『バイオハザード』シリーズのミラ・ジョヴォヴィッチ。対する悪役、伝説のテロリスト“時計屋”として『007』シリーズのピアース・ブロスナン。配役を聞いただけで気が急くようなサスペンス・…

彼は秘密の女ともだち

娘を産んだ直後に病で逝った女性を軸に、その生涯の親友だった主人公と、残された“夫”の交流を描く。ただ“夫”は、亡き妻のワンピースをまとい、ウィッグと化粧で女装して赤ん坊をあやしていた──“自分はゲイではないが、女として扱われたい”と。当初、激しい…

ジュラシック・ワールド

93年の“ジュラシック・パーク”の大惨劇から22年。懲りない人間は同じ島に“ワールド”を建設、今では大人気のリゾート地に。恐竜を単なるビジネス・アイテムと捉える者、敬意を持ち絆を結ぼうとする者、密かに軍事兵器化を狙う者など、運営側の思惑も交錯し──…

人生スイッチ

スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル製作のアルゼンチン映画。不意に窮地に立たされた男女を描くコメディ……との前評判だが、想像よりブラックでスパイシー。オムニバス6編で描かれるのは、乗客全員がある男の恨みを買っていると発覚した航空機内の混乱。不条…

アリスのままで

アリスはまだ50歳の優秀な言語学者。物忘れが多くなり受診した神経科で、自分がその病にかかっていることを知った。若年性アルツハイマー。若くして老い、日々記憶の欠片を失っていく恐怖。自分が朽ちていくのを傍観するしかない絶望。「癌ならよかった。癌…

海街diary

鎌倉の大きな古家に住む三姉妹のもとに、かつて彼女らを捨てた父親の訃報が届く。その葬儀の後、長女が衝動的に、初対面で中学生の“四女”に「鎌倉で一緒に暮らさない?」と誘うことから物語は始まる──腹違いの妹、不倫で自分たちの父を奪った女の娘に。 しっ…

インサイド・ヘッド

“感情”や“記憶”を繊細なCGで具現化、絵本のような世界を作り上げているが、「人の成長には悲しみや怒りも必要」なんて哲学的なテーマが、子どもに分かるのかピクサー。舞台は誕生直後の少女の心の中。“喜び”や“悲しみ”が擬人化され、少女が成長し、興味や特…

アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン

元武器商人で今は改心した大富豪“アイアンマン”をリーダーに、“超人ハルク”や“マイティ・ソー”“キャプテン・アメリカ”などマーベル・コミック社のアメコミ・ヒーローたちの世界を重ね合わせ、豪華チームを組ませて巨悪と闘うシリーズの第2弾。今回は敵側の特…

あの日の声を探して

冒頭、少年が赤ん坊を抱いてあやしつつ、両親が銃殺されるのを窓越しに眺めている。99年、ロシアからの独立を求めるチェチェンの紛争。少年は姉を残して逃げ、途中で赤子の弟を捨てる。捨てるしかなかった。そして何もしゃべれなくなる。あるEUの無力な女職…

マジック・イン・ムーンライト

尊大で皮肉屋の有名奇術師が、友人に頼まれる。“ある富豪一家に霊媒師を名乗る小娘が取り入り、心酔した一家は全財産を注ぎ込みかねない。そうなる前に彼女のトリックを見破ってほしい”──出向くと、確かに娘はいきなり彼の素性や行動を言い当てた。男は最初…

アドバンスト・スタイル そのファッションが、人生

思うままに着飾り、背筋を伸ばしてN.Y.の街を闊歩する老マダムたちのドキュメンタリー。八十代、九十代でも「若く見えるより魅力的に見えたいの」と、自分でデザインした色鮮やかな洋服を身につけ、自分の髪で作った羽のような付け睫毛でシャンソンを歌う。…

ファーゴ

アカデミー脚本賞、カンヌ監督賞を獲ったコーエン兄弟の名作『ファーゴ』が、 世界観、舞台をそのままに新たなストーリーでTVドラマ(全10話)として復活。極寒のミネソタ州の小さな町で起こる連続殺人事件。どこかまぬけな、悪人でもない人たちのちょっとし…

パレードへようこそ

炭坑夫の労働組合と、ゲイ、レズビアン。前者はサッチャー首相の強硬政策で廃坑を迫られ町全体が困窮し、後者は敬虔なキリスト教徒から忌み嫌われている。接点のないはずの二者が、世間の偏見や無理解に対して共闘し始めた――。舞台は英国、84年。カルチャー…

ワイルド・スピード SKY MISSION

アメリカ人の大好物、ド派手な銃撃戦とカー・アクションのシリーズ7作目。一応“家族愛”や“仲間の絆”を下敷きにしてあるが、やはり見所8割は車と爆破と肉弾戦。マニア垂涎の歴史的名車を惜しげもなく潰し、燃やし、空から落とす。出てくるのはどいつもこいつ…

ソロモンの偽証

法廷物、陪審員物に名作は多いものの、未熟な中学生らが自分たちのために動いて開いた“学校内法廷”というのは、作者にとっても観客にとっても挑発的な試み。ある男子生徒の“飛び降り自殺”から始まり、イジメや家庭問題、そしてまたひとりの女子生徒の事故死…

博士と彼女のセオリー

“車椅子の天才科学者”として誰もが知るホーキング博士の、若き日の恋や学友との明るい生活から、徐々に難病ALSに冒されていくさまを描く。彼はまず手足の自由を、そして次第に言葉をさえも失ってしまう。一時、その“世界最高の頭脳”は動かない殻のような体の…

ブルックリンの恋人たち

ミュージシャンを目指し路上で歌う生活をしていた弟が、事故で昏睡状態に陥る。それまで長く仲違いしていた姉は、弟の痕跡を追おうと、弟が録音した歌を聴き、弟が好きだった歌手に会い──いつしかその歌手が心の支えとなって──。全編に挿入される“商業化には…

きっと、星のせいじゃない。

肺癌ステージ4の少女が、骨肉腫で右足を失った青年とふつうに出会い、ふつうに恋をする。ふつうの言葉でたくさんの話をするが、彼らは泣きも喚きもしない。傍目には重い内容を、ときには冗談にすらしてしまう。若くしてふたりとも、自分たちに未来がないこと…

毛皮のヴィーナス

ロマン・ポランスキー監督による完全な二人芝居。オーディションに遅れてきた下品で我が儘な女優。ただただ早く帰りたい演出家。しかし強引に演技を始めると、彼女はすべての台詞をそらんじており、19世紀の教養ある貴婦人そのものに。作品に対する独自の解…

シェフ 三ツ星フードトラック始めました

料理の腕はピカイチだが雇われ人としては不器用なシェフ。グルメ評論家に悪口を書かれたことに腹を立て、Twitterの仕組みを知らないままに抗議の悪態を送ったら、それが拡散され、結局、地位もプライドも失う。失意の中、オンボロの屋台トラックを買った彼は…