Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

愚行録

週刊誌記者の主人公(妻夫木聡)は、幼児虐待による妹(満島ひかり)の逮捕から目をそらすように、一年前に起こったエリート一家惨殺事件の掘り起こし取材に没頭していた。見栄や嘘、嫉妬や階級意識など、誰もが日々積み重ねている“愚行”を淡々と描きつつ、…

ゴースト・イン・ザ・シェル

アニメ、小説、ゲームとさまざまな派生作品を生み出してきた95年の士郎正宗のマンガ『攻殻機動隊』のハリウッド流解釈。人工パーツの発達でロボットと人間の境目すら危うくなってきた未来、政府は軍事目的で人間の脳を義体に移植する技術を開発していた──と…

パッセンジャー

5000人の乗客が巨大宇宙船の中で人工冬眠し、120年をかけて別の惑星への移住を試みる。しかし何かの故障か、予定より90年も早く一人の男が、続いてまた一人の若い女が目を覚ましてしまう。このままでは二人きり、船の中で残り数十年の人生を終えることに──!…

SING / シング

3DCGでデフォルメされた、どこか人間くさい動物たちのミュージック・コメディ。知ってる歌が次々出てくる! 破産寸前の劇場支配人が、素人シンガーたちを集めて再起を図るものの、手違いと勘違いの連続で──。ゲームセンターの“ガチャポン”を思い出した。いろ…

マリアンヌ

戦時中のモロッコで偽装夫婦となった二人の諜報員が、ナチス要人の暗殺という使命を果たして生き延び、互いに惹かれ、逃れ出たロンドンで本物の夫婦となる。空襲のさなか、愛娘も授かった。しかしその幸福は、夫が上層部から受けた通告で崩れかける──「君の…

アイヒマンの後継者

何も知らない被験者に他人に電気ショックを与える課題を出し、“良識ある人間がなぜ残虐行為に走るのか”“人はいかに権威に服従するか”を検証する、60年代の有名な社会心理学の実験。そのほか、今では倫理的に許されそうもない実験の数々をおりまぜ、ある科学…

手紙は憶えている

目を覚ますたびに妻の姿を探し、もう亡くなっていることを知らされて落胆する──認知症を患って施設で暮らす90歳の老人。ある日彼は友人に一通の手紙を託された(手紙なら、記憶を失ってもまた思い出せる)。記されていたのは、彼らがアウシュビッツで家族を…

マダム・フローレンス! 夢見るふたり

メリル・ストリープとヒュー・グラント、名優2人が小喜劇に挑む。オペラの殿堂カーネギーホールで“伝説の歌姫”となった実在の貴婦人、マダム・フローレンス。その歌声はどこか不安定で、音程とリズムに難があり、声域も狭く──要するに彼女はド音痴だった!(…

湯を沸かすほどの熱い愛

一年前に家出した夫を待ち続け、娘とふたり静かにくらす妻が、突然末期ガンの宣告を受ける。いくつかの“死ぬまでにやるべきこと”を決めて実行する彼女と、さまざまな人との出会いや再会──。監督は自主映画『チチを撮りに』で国際的な評価を得た中野量太。物…

永い言い訳

すでに邦画界での評価を固めた西川美和が執筆、直木賞候補となった小説をみずからの脚本・監督で映画化。人としても夫としても最低の部類に入る小説家の男が主人公であるあたり、師匠筋に当たる是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』と共通する。が、是枝が“こ…

92歳のパリジェンヌ

元フランス首相の母親で、尊厳死を求めて戦った女性の実話が原作。温かい家族に恵まれつつも、老いによって“もう自分でできなくなったこと”をひとつずつ数え、「まだ気力のあるうちに人生を終わらせたい」という92歳の老婦人。若い頃から社会活動家として強…

ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期

ちょっとダメなアラサー女子を描いて全世界の女性を共感の渦に巻き込んだ初作から早15年。11年ぶりのシリーズ3作目。気がつけば彼女も43歳、いまだ独身だ。ひとりで寂しい誕生日を迎えたかと思いきや、偶然出会ったハンサムなIT実業家と、忘れられない元彼の…

お父さんと伊藤さん

フリーターの娘(34歳)とその彼氏(バツイチ54歳)。2人が暮らす古いアパートに、突然娘の父親(74歳)が転がり込んでくる。ちょうど20歳ずつ離れた3人の共同生活は当然ぎこちなく小さな衝突だらけ――。『百万円と苦虫女』のタナダユキ監督が中澤日菜子の同…

ハドソン川の奇跡

2009年1月、乗員・乗客155人を乗せたエアバスがNYの空港を発った直後、両エンジンが大破、制御不能に。墜落と全員の死亡さえ覚悟された中、機長は独断でハドソン川への緊急着水を決行、そこで奇跡が起こった──と、ここまでは日本でも大きく報じられた美談。…

オマールの壁

未だ混乱の最中にあり、ただ穏やかな暮らしを望むためだけにも銃や暴力が必要な中東・パレスチナ。親友の妹を想いつつ、パン作りに精を出して真面目に生きている若者ですら、壁に囲まれたその街から逃れ出ることはできない。誰かを信じると裏切られ、信じな…

ミモザの島に消えた母

西フランスの慎ましく美しい景色の中にあった、おぞましい人間の業。人生も後半にさしかかった男が、幼い頃に亡くした母を想う。母はただ「海で溺れて死んだ」とだけ聞かされ育った。躊躇する妹を巻き込み、故郷の島に戻ってゆっくりと過去を掘り起こす男。…

ニュースの真相

今や“歴代最低の大統領”とも評されるW・ブッシュ。二期目を目指し選挙戦に挑んでいた2004年、CBSニュースの報道陣が彼の軍歴詐称疑惑、コネによる兵役逃れをスクープした。事実であれば、国民の反発は必至。追い詰めるジャーナリストたちの気迫、しかし彼ら…

ヤング・アダルト・ニューヨーク

『イカとクジラ』のノア・バームバックが監督・脚本のシニカル・コメディ。売れないドキュメンタリー監督の夫と、夫よりは腕の立つプロデューサーの妻。子は授からなかったもののセックスもあり、それなりに充実した日々を送っている(つもりの)四十代のふ…

X-MEN:アポカリプス

シリーズ物につきものの“ムチャやっちゃった過去作とどう折り合いをつけるか問題”は前作『フューチャー&パスト』で過去をリセットしたことによりクリア、舞台は“人類とミュータントが共存する1980年代”に(時代感の再現がお見事)。とはいえ隠された差別は残…

或る終焉

『父の秘密』で世界的な評価を得たメキシコの新鋭、マイケル・フランコ監督の新作。終末期患者のケアと看取りを繰り返す看護師(ティム・ロス)。息子の死をきっかけに家族と疎遠になっている彼は、患者と親密な関係を築くことを心の拠りどころにしていたが─…

セトウツミ

わはは、なんでこんなもん作ろうと思うてんやろ。天然で何事にもやる気なさげな瀬戸と、秀才で何を考えているか見えてこない内海、大阪は堺市の男子高校生ふたりの放課後ヒマつぶしトーク……それだけで終始一貫75分。川縁に座り体温低めで続く意味のない会話…

シークレット・アイズ

犯人は特定されたのに、政治的な理由から封印された13年前の殺人事件。新たな手がかりが浮かび、娘を殺された女と元同僚の男女がFBIで再会するが──。アカデミー外国語賞を受賞したアルゼンチンのサスペンス映画『瞳の奥の秘密』をハリウッド流豪華キャストで…

シビル・ウォー / キャプテン・アメリカ

タイトルこそ『キャプテン・アメリカ』だが実質的にはヒーロー総出演の『アベンジャーズ』で、その内部分裂(特にアイアンマンとの軋轢)を描く。今回から軍陣に加わったちょっと間抜けなアントマン、ソニーとの権利関係を乗り越えて登場する少年スパイダー…

10 クローバーフィールド・レーン

交通事故に遭った女が目覚めたのは閉ざされた地下シェルターの一室。脚は鎖で壁に繋がれ、ほかにいるのは見知らぬ男二人だけ。「異星人が攻めてきた」という男の言葉は、虚言? 狂信? 真実? 『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で壮大な宇宙戦争史の一端…

モヒカン故郷に帰る

東京でデス・メタルバンドを組んでいた男が、恋人の妊娠をきっかけに故郷・広島の小島に帰る。広島といえば矢沢永吉、広島といえばカープ。島に住む両親の熱狂ぶりが、瀬戸内の静かな情景とアンバランスでおかしい。柄本明やもたいまさこという芸達者の中で…

ズートピア

肉食・草食、大型・小型の動物たちがともにくらす大都会“ズートピア”。夢を信じる新米ウサギ婦警と、夢を捨てたキツネの詐欺師が、なぜかタッグを組んで街中を走り回ることに──。現代社会のあれこれを戯画化して盛り込んでいるのが楽しい。“努力し続ければ夢…

さざなみ

『ウィークエンド』で青年同士の一夜の愛の切なさと絆を描いたアンドリュー・ヘイ監督が、本作では長年連れ添った老夫妻の愛の姿を静かに表現。結婚45周年パーティの5日前、夫の元に一通の手紙が届く。夫は“昔のこと”を回顧する。妻の胸の内に小さなささくれ…

人生は小説よりも奇なり

39年間連れ添った爺ちゃん二人が、周囲の祝福の中、結婚した。同性婚もここまで社会に馴染んでいるのか米国は──と思えばやはりそうでもなく、カトリック系の学校に勤めていた片方がそれで職を失い、ついで家も失う。とりあえず甥や友人の家で別々に居候を始…

マン・アップ! 60億分の1のサイテーな恋のはじまり

馬鹿をやらせたら天才的なサイモン・ペッグが主演・脚本・製作総指揮の、たった一夜のラヴ・コメディ。いろいろとこじらせてくすぶっている34の独身女と40のバツ一男が、相手を取り違えたまま初デートして、一瞬は意気投合するものの数時間後には罵り合い、…

ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります

想い、偲び、察する──自己主張の国アメリカには不似合いな言葉が思い浮かぶ。老い始めた夫婦(モーガン・フリーマン&ダイアン・キートン)が40年間を過ごした5階建てのアパートメントは、見晴らしはいいが階段がきつい。やっと売却を決意し、内覧会を開く夫…