Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

感情を持たない“欠陥品”の少女と、品行方正の優等生

自分が“怒り”や“悲しみ”という感情を持たない欠陥品だと気づいた少女は、周囲の感情をテクニックで模倣することで調和を保とうとしていた。
精神科医たちは助けにはならない。挙げ句、同級の“優等生”に友人としてセラピーを受けることに。 しかし、歪みが外から見えている少女よりも、歪みを隠し通している“優等生”の闇は深かった──。
ふたりは確かに通じ合った、“凶暴な友情”で。
小粒ながら、深い狂気を秘めた佳作。

ボリウッド映画から脱し、歌い踊る代わりに、殺す、殺す、埋める、隠す。

話題のため盲目を装ったピアニストが、招かれて行った大富豪の家で、その富豪が若い妻とその愛人に殺されているのを“目撃”。 いや、目撃してはならないのだ、彼は盲目なのだから。
大勢の歌と踊りで魅せるボリウッド映画から脱し、脚本と演技の力で勝負した一本。
若く美しい妻らは、気軽に歌い踊る代わりに、殺す、殺す、埋める、隠す。
かなり凄惨な話なのに始終苦笑していられるのは、やはり監督と脚本の力。

ぼくらが子どものころに憧れた近未来そのもの

脳内にAIチップを埋め込むことで超人的サイボーグとなる主人公──SFでは見慣れた設定だが、いや待て、腕に内蔵された銃、全自動で動く部屋や車、拡張された身体能力、頭内に響く的確なチップの声。これは、ぼくらが子どものころに憧れた近未来そのものじゃないか!
その“少年の夢”が、極めてスタイリッシュに造形される。
未来の街の景色や生活の細部にも興奮、サスペンス要素も十分。元SF少年としてハマった。

上出来の韓流コメディ・アクション

いささか残念な面々が集まった麻薬捜査班。他班に出し抜かれた挽回にと、悪党組織の真向かいのフライドチキン店を買い取り常時監視を企むが──それぞれ意外な才能を発揮してしまい、チキン店は行列の大繁盛に!
『過速スキャンダル』『サニー永遠の仲間たち』の脚色イ氏が初監督。
閉店後の捜査反省会で「タマネギ80kg、ニンニク500個剥いてみろ!」とブチ切れる捜査官に失笑。
上出来の韓流コメディ・アクション。

黒人として生きることの閉塞感、見せかけの平等社会への違和感

戦争中の母国から裕福な白人夫婦に引き取られた黒人高校生のルースは、学業・スポーツ・討論、いずれも秀でた“学校のスター”。
彼が“名誉白人”として扱われていることは、たぶん本人も気づいていない。
だが、ある事件をきっかけに“彼はじつは危険な思想を内に秘めているのではないか”と、幸せだったはずの親子の断絶が始まる。
彼の中ではまだ萌芽でしかない、黒人として生きることの閉塞感、見せかけの平等社会への違和感を巧妙に描いた。

欧州人の気取りと、その皮一枚下にある人間味

フランス流のエスプリを効かせた舞台が欧州中で好評となり映画化、当事国(として笑われる)ドイツでも150万人動員の大ヒットに。
出産間近のあるご婦人を祝いに集まったのは、知性あふれる5人の男女。シニカルで気の効いた、軽快な会話が続く中、我が子の名をあの禁忌名“アドルフ”にすると告白されたみなは、慌ててなんとか翻意させようとする。が、その懸命さの中でつい自分の本性を──。
欧州人の気取りと、その皮一枚下にある人間味を感じられる小品。

“剣と龍と魔法モノ”をピクサー流に調理したら、美味しい、良質なコメディに

痩せて気弱な弟と“古代魔術オタク”でハチャメチャな兄。
亡き父が遺した魔術で父を1日だけ蘇らせようとするが、生き返ったのは下から半分だけ!
兄弟は、完全再生に必要な地図や剣や石を探して無茶な冒険に出る。
“剣と龍と魔法モノ”をピクサー流に調理したら、美味しい、良質なコメディに仕上がった。
子どもたちが世の中のルールから開放され、魔法のルールに集中できる爽快感。
いわゆる“空想動物”の苦笑を誘う造形もサイコー。