Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

「元彼・元カノ」より一層深く濃い「元彼・元彼」の関係と軋轢

青年期をゲイ / バイとして過ごし、同性との恋愛やセックスを重ねた後、女性と結婚する人は少なくない。
それを虚無と捉え、あえて都会から山村に移り一人で暮らしていた若者を、かつて恋人だった男が訪ねてくる。幼い一人娘を連れて。
女なんかと結婚してたのか──若者の狼狽。
男は娘の親権問題で疲れ果てていた。村は彼らを温かく迎えた。若者もいつしか少女と馴染んでいった。
が、男同士で不意のキスをしているのを娘に見られ、事態は急変していく……。

【CDジャーナル 2020年冬月号掲載】

米露、敵対するはずの潜水艦船員たちのヒリヒリとした感覚。

米ロ、敵対する二国の潜水艦の一方が深海で事故に巻き込まれる。
これは罠か!?
安全な地上にいる役人たちからの指令と、“人生の大半を水の中で過ごしてきた艦員たち”の“勘”やヒリヒリとした“感覚”、国を超えた“同胞的な想い”──ボタンひとつで核戦争が始まる可能性もある。
何もせずに、ただ死んでいく手もある。
裏にはロシア軍部が起こしたクーデーターがあることも、徐々に分かってくる。
比喩でなく“息詰まる”感覚に翻弄されるままの122分間。

【CDジャーナル 2020年冬月号掲載】

困難にきちんと対峙しようとする、未熟すぎてそれしか術を知らない少女たち

互いの父と母が不倫関係にある二人の女子高校生。
一時は校内で取っ組み合いのケンカをするほどの険悪さだったが、不倫の母の妊娠・出産で双方にとっての“義理の弟”が生まれたことを機に、その関係は徐々に変化していく。
その場の快楽だけを求め、困難に対面するのをとことん避けようとする大人たち。
きちんと対峙しようとする、未熟すぎてそれしか術を知らない少女ら。
さまざまな痛みと悼みを胸に押し込め、はしゃいで笑顔をみせる少女たちが哀しい。

【CDジャーナル 2020年冬月号掲載】

ボリウッド映画から脱し、殺す、殺す、埋める、隠す。

話題のため盲目を装ったピアニストが、招かれて行った大富豪の家で、その富豪が若い妻とその愛人に殺されているのを“目撃”。
いや、目撃してはならないのだ、彼は盲目なのだから。
大勢の歌と踊りで魅せるボリウッド映画から脱し、脚本と演技の力で勝負した一本。
若く美しい妻らは、気軽に歌い踊る代わりに、殺す、殺す、埋める、隠す。
かなり凄惨な話なのに始終苦笑していられるのは、やはり監督と脚本の力。

【CDジャーナル 2020年夏月号掲載】

上出来の韓流コメディ・アクション

いささか残念な面々が集まった麻薬捜査班。他班に出し抜かれた挽回にと、悪党組織の真向かいのフライドチキン店を買い取り常時監視を企むが──それぞれ意外な才能を発揮してしまい、チキン店は行列の大繁盛に!
『過速スキャンダル』『サニー 永遠の仲間たち』の脚色イ氏が初監督。閉店後の捜査反省会で「タマネギ80kg、ニンニク500個剥いてみろ!」とブチ切れる捜査官に失笑。上出来の韓流コメディ・アクション。

【CDジャーナル 2020年夏月号掲載】

ぼくらが子どものころに憧れた近未来そのもの

脳内にAIチップを埋め込むことで超人的サイボーグとなる主人公──SFでは見慣れた設定だが、いや待て、腕に内蔵された銃、全自動で動く部屋や車、拡張された身体能力、頭内に響く的確なチップの声。これは、ぼくらが子どものころに憧れた近未来そのものじゃないか!
その“少年の夢”が、極めてスタイリッシュに造形される。
未来の街の景色や生活の細部にも興奮、サスペンス要素も十分。元SF少年としてハマった。

【CDジャーナル 2020年夏月号掲載】

アメリカの地下にある忘れられた数千kmの地下道──ただただ怖い。

歴史が浅い国のわりに、アメリカの地下には数千kmもの忘れられた地下道がある。破棄された地下鉄網や道路、廃坑などだ。
地上には陽射しに包まれた生活がある。
しかし地下にもし、封じられた人々の生活があるとしたら……まるで地上の人々の幸せの影にように。
交わるべきではなかったのに、ある移動遊園地には、ふたつの世界を繋ぐ穴が開いていた──ただただ怖い、が、最後の一瞬で、観客はさらに怖いことに気づく。

【CDジャーナル 2020年春月号掲載】