Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

ボリウッド映画から脱し、殺す、殺す、埋める、隠す。

話題のため盲目を装ったピアニストが、招かれて行った大富豪の家で、その富豪が若い妻とその愛人に殺されているのを“目撃”。
いや、目撃してはならないのだ、彼は盲目なのだから。
大勢の歌と踊りで魅せるボリウッド映画から脱し、脚本と演技の力で勝負した一本。
若く美しい妻らは、気軽に歌い踊る代わりに、殺す、殺す、埋める、隠す。
かなり凄惨な話なのに始終苦笑していられるのは、やはり監督と脚本の力。

【CDジャーナル 2020年夏月号掲載】

上出来の韓流コメディ・アクション

いささか残念な面々が集まった麻薬捜査班。他班に出し抜かれた挽回にと、悪党組織の真向かいのフライドチキン店を買い取り常時監視を企むが──それぞれ意外な才能を発揮してしまい、チキン店は行列の大繁盛に!
『過速スキャンダル』『サニー 永遠の仲間たち』の脚色イ氏が初監督。閉店後の捜査反省会で「タマネギ80kg、ニンニク500個剥いてみろ!」とブチ切れる捜査官に失笑。上出来の韓流コメディ・アクション。

【CDジャーナル 2020年夏月号掲載】

ぼくらが子どものころに憧れた近未来そのもの

脳内にAIチップを埋め込むことで超人的サイボーグとなる主人公──SFでは見慣れた設定だが、いや待て、腕に内蔵された銃、全自動で動く部屋や車、拡張された身体能力、頭内に響く的確なチップの声。これは、ぼくらが子どものころに憧れた近未来そのものじゃないか!
その“少年の夢”が、極めてスタイリッシュに造形される。
未来の街の景色や生活の細部にも興奮、サスペンス要素も十分。元SF少年としてハマった。

【CDジャーナル 2020年夏月号掲載】

アメリカの地下にある忘れられた数千kmの地下道──ただただ怖い。

歴史が浅い国のわりに、アメリカの地下には数千kmもの忘れられた地下道がある。破棄された地下鉄網や道路、廃坑などだ。
地上には陽射しに包まれた生活がある。
しかし地下にもし、封じられた人々の生活があるとしたら……まるで地上の人々の幸せの影にように。
交わるべきではなかったのに、ある移動遊園地には、ふたつの世界を繋ぐ穴が開いていた──ただただ怖い、が、最後の一瞬で、観客はさらに怖いことに気づく。

【CDジャーナル 2020年春月号掲載】

苦労人は、いつしか歪んだユーモアを持つサイコパスとなった。同情はできない哀しさ。

世紀の悪人は、いかにして悪人となりしか。
アメコミの常で各キャラの出自は何度も違う形で描かれてきたが、バットマンの宿敵ジョーカーについては、これがもっともダーク。
堕ちていったのに、大きな要因などなかった。病の母を介護しつつ芸人を目指し、ピエロ役で下積みする男の小さな苦悩の積み重ね。本作はそれを丹念に描いた。
苦労人は、いつしか歪んだユーモアを持つサイコパスとなった。同情はできない哀しさ。

【CDジャーナル 2020年春月号掲載】

感情を持たない欠陥品だと気づいた少女は、“優等生”の友人にセラピーを受けることに……しかしそこにはより深い闇が。

自分が“怒り”や“悲しみ”という感情を持たない欠陥品だと気づいた少女は、周囲の感情をテクニックで模倣することで調和を保とうとしていた。 
精神科医たちは助けにはならない。挙げ句、同級の“優等生”に友人としてセラピーを受けることに。
しかし、歪みが外から見えている少女よりも、歪みを隠し通している“優等生”の闇は深かった──。ふたりは確かに通じ合った、“凶暴な友情”で。
小粒ながら、深い狂気を秘めた佳作。

【CDジャーナル 2020年春月号掲載】

男と女、一度愛の不均衡が生まれると、なかなか本人らには是正できない

男は女を雑に扱う。女はそれでも一途に好きでいる。 一度愛の不均衡が生まれると、なかなか本人たちには是正できない。
“恋人”という関係の、実際の惰性や曖昧さを淡々と、しかしある意味容赦なく描写する。
小説を原作に持つせいか人物背景などを作り込みすぎ、あざとい感もあるが、“幸福の瞬間”の象徴としてもっとも印象的な“ケチャップを味見する”シーンが、成田凌のアドリブだと知って驚く。丁寧な良作。

【CDジャーナル 2020年冬月号掲載】