Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

プラハ!

 このたった数ヶ月間の記憶を、チェコの人々はとても大事にしているのだろう。後に“プラハの春”と呼ばれる1968年の春から夏にかけての数ヵ月間、この国の人々は短い自由を謳歌した。共産党に権力が集中する体制に批判が高まったことから、この間だけ、言論・芸術の自由化や市場経済の導入など“人間の顔をした社会主義”への改革が試みられたのである。

 本作『プラハ!』は、その短い春の間に出会って恋をした若者たちを描く、レトロでポップなミュージカル映画だ。

 高校卒業を控えた女子学生三人組は、恋を夢見ながら、ロスト・バージンの計画に余念がない。そこに出会ったのが、少し年上でどこか謎めいた三人の精悍な旅行者。町はずれの廃屋で寝起きする彼らに、三人娘はどんどん惹かれていき、ついに一夜を共にした直後、彼女たちは知ることになる。青年たちは、社会主義に反発して軍から逃げてきた脱走兵だったのだ──。

 60年代の流行を再現した女の子たちのファッションは、キッチュでカラフル。彼女たちが歌って踊る場面は、不慣れで少しぎこちないのがかえってかわいい。街並み全体が世界遺産として登録されているプラハの街景色も美しく、また“チェコキュビズム”と呼ばれる独特の形式の建物や日用品も、伝統の重みを感じさせつつ新鮮に映える。そして映画全体が、スタイリッシュなのにどこか素朴で野暮ったいのがいい。

 しかし、彼女たちの短い春は唐突に終わる。現実の歴史では、68年の夏、反共産化を嫌ったソ連軍がチェコに侵攻し、国家による抑圧が再開される。チェコ社会主義は結局1948年から89年まで続き、“プラハの春”はその41年間の中のたった数ヵ月間でしかなった。戦争の暗い影が再び街を覆う中、彼女たちの恋はその後どうなったのだろうかと、悲しい余韻が残る。

【CDジャーナル 2007年01月号掲載】