Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

ダック・シーズン

“MTV出身監督のデビュー作、メキシコ・アカデミー賞で11部門制覇!”という売り文句は派手だが、実に淡々と流れ、けだるい中に小さな共感を感じるような一作である(エンドロールでジム・ジャームッシュ小津安二郎への謝辞があったのに納得)。舞台は古く巨大な集合住宅。カメラはその一室からほとんど出ることなく、ある休日の午後にたまたま集まった4人の姿をモノクロ映像で切り抜いて見せる。母親に留守番を任された14歳の少年と、その親友。突然「オーブンを貸して」と現れた年上の少女。ピザの配達に来た不器用な青年。派手な事件は何も起こらないが、思春期の少年たちが持てあます退屈と臆病、見栄や欲望により、平凡な日常は、少しずつずれた光景に変化してゆく。ぼくらが14歳の頃に見ていた世界って、こんな感じだったのかもしれない。途切れ途切れにしか理解できない、自分が今いる世界──その漠然とした不安を少し思い出した。

【CDジャーナル 2007年02月号掲載】