Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

この世界の片隅に

“男目線”で怒号や爆撃音を響かせる戦争映画とは異なり、“女こども”の目線でその後ろに地続きにあった人々の生活を描いている点で、『火垂るの墓』を思い重ねる人も多いだろう。絵を描くことだけが得意でどこかボンヤリしており、18歳で広島から軍港の街・呉に嫁いだ主人公・すずの目を通して物語はつづられる。画風は淡々としているが漫画原作者こうの史代、監督・脚本の片渕須直ともに膨大な量の戦時資料にあたっており、人々の生活や軍艦の動向など、かなり正確。しかし強き者が掲げる“正義”や“国の尊厳”は是とも非ともせず、ただその背後にいた弱き者たちの静かな日常を、丁寧な色合いで表現した。「非常時のために床下に備蓄しておいた芋が、空襲でいい具合に焼けたから食べよう」という短いシーンなど、秀逸。作者が意図しているかどうかは分からないが、ラスト数シーンは、『火垂るの墓』で味わったやるせなさに対するひとつの救いの提示であるように感じる。

【CDジャーナル 2017年11月号掲載】

マンチェスター・バイ・ザ・シー

人は本当に悲しいとき、泣くまでに時間がかかる。兄の死により甥の後見人に指名され、事情があって離れていた故郷に戻る男。甥である少年はまだ十代で、バンド活動や女の子にうつつを抜かし、父の死に傷ついてい様子はない──が、実はそれはまだ幼すぎて、悲しみに対応しきれていないだけ。そしてそれは主人公も同じだった。逃げているだけで、何も乗り越えていない大人──。『インターステラー』のC・アフレックが抑制された演技でアカデミー主演男優賞、監督のK・ロナーガンが脚本賞を受賞。静かな感動。

【CDジャーナル 2017年11月号掲載】

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス

間違ってもアベンジャーズX-MENには入れない、マーベル戦隊オチャラケ部門の荒くれ者チーム。その一員、アライグマのスーパーヒーロー(!)がちょっとした盗みを働いたことから、一同はうっかり銀河を破滅から救うハメに──。リアリティなどはなから無視した、チープでキッチュな絵づくり、毒々しい色彩。シリーズ2作目で一応前作からの伏線もあるのだが、気にしなくていい。星であり神である父親の出現って、なんじゃそら(笑)。田舎の寂れたゲームセンターにも似た、郷愁のような味わいの極彩色SF。

【CDジャーナル 2017年10月号掲載】

エイミー、エイミー、エイミー!

米国の人気コメディエンヌ、エイミー・シューマーが製作・脚本、さらには自身を投影した同名の主人公エイミー役を演じる。三十を過ぎて恋人はいても一夜限りの男遊びは別腹の彼女が、ある外科医との出会いで奔放な自分を反省するが──。けっこうな激しさのSEXシーンは多いのに、女性はほとんど肌を見せない。というか、はなから女を魅力的に見せようとなどしてなくて、そのかわりにマッチョなメンズがやたらと脱ぐ。どこか漂うトホホ感が楽しい。監督が『40歳の童貞男』のJ・アパトーだというのがこれまたね。

【CDジャーナル 2017年10月号掲載】

愚行録

週刊誌記者の主人公(妻夫木聡)は、幼児虐待による妹(満島ひかり)の逮捕から目をそらすように、一年前に起こったエリート一家惨殺事件の掘り起こし取材に没頭していた。見栄や嘘、嫉妬や階級意識など、誰もが日々積み重ねている“愚行”を淡々と描きつつ、いつしかそれらが絡み合って謎の中心に迫り寄っていく様はお見事。直木賞候補となった貫井徳郎の同名小説が原作。準主役の小出某が起こした淫行事件で劇場公開が中止となって“まさに愚行”というオチまでついたが、それで埋もれさせるのは惜しい良作。

【CDジャーナル 2017年09月号掲載】

ゴースト・イン・ザ・シェル

アニメ、小説、ゲームとさまざまな派生作品を生み出してきた95年の士郎正宗のマンガ『攻殻機動隊』のハリウッド流解釈。人工パーツの発達でロボットと人間の境目すら危うくなってきた未来、政府は軍事目的で人間の脳を義体に移植する技術を開発していた──と、実はストーリーはわりとどうでもいい。見るべきは、本腰を入れて映像化した未来の光景やテクノロジー。記憶の入れ替えができれば空想と現実は同じもの、と、そんな感覚さえも巧みに映像化している。題材はもはや古典だが、SF映画としての出来は出色。

【CDジャーナル 2017年09月号掲載】

パッセンジャー

5000人の乗客が巨大宇宙船の中で人工冬眠し、120年をかけて別の惑星への移住を試みる。しかし何かの故障か、予定より90年も早く一人の男が、続いてまた一人の若い女が目を覚ましてしまう。このままでは二人きり、船の中で残り数十年の人生を終えることに──! 孤独と絶望、諦観、そして二人の関係性の変化。SFとしては決して新奇な題材ではないが(藤子・F・不二雄なら30ページのマンガにしそう)、それがちゃんと魅力的に見えるのは、恋愛モノとして上出来だから。そして宇宙船のデザインがカッコいい!

【CDジャーナル 2017年08月号掲載】