この世界の片隅に
“男目線”で怒号や爆撃音を響かせる戦争映画とは異なり、“女こども”の目線でその後ろに地続きにあった人々の生活を描いている点で、『火垂るの墓』を思い重ねる人も多いだろう。絵を描くことだけが得意でどこかボンヤリしており、18歳で広島から軍港の街・呉に嫁いだ主人公・すずの目を通して物語はつづられる。画風は淡々としているが漫画原作者のこうの史代、監督・脚本の片渕須直ともに膨大な量の戦時資料にあたっており、人々の生活や軍艦の動向など、かなり正確。しかし強き者が掲げる“正義”や“国の尊厳”は是とも非ともせず、ただその背後にいた弱き者たちの静かな日常を、丁寧な色合いで表現した。「非常時のために床下に備蓄しておいた芋が、空襲でいい具合に焼けたから食べよう」という短いシーンなど、秀逸。作者が意図しているかどうかは分からないが、ラスト数シーンは、『火垂るの墓』で味わったやるせなさに対するひとつの救いの提示であるように感じる。
【CDジャーナル 2017年11月号掲載】
エイミー、エイミー、エイミー!
米国の人気コメディエンヌ、エイミー・シューマーが製作・脚本、さらには自身を投影した同名の主人公エイミー役を演じる。三十を過ぎて恋人はいても一夜限りの男遊びは別腹の彼女が、ある外科医との出会いで奔放な自分を反省するが──。けっこうな激しさのSEXシーンは多いのに、女性はほとんど肌を見せない。というか、はなから女を魅力的に見せようとなどしてなくて、そのかわりにマッチョなメンズがやたらと脱ぐ。どこか漂うトホホ感が楽しい。監督が『40歳の童貞男』のJ・アパトーだというのがこれまたね。
【CDジャーナル 2017年10月号掲載】