文豪・井上靖が母の晩年をモデルに描いた三部作小説を、樹木希林、役所広司らの手練れが演じる。呆け始めた母、その母に捨てられた過去すらをも文筆の熱源に変える息子、二人に振り回されつつも我を通す娘や孫たち。唯一、末の孫娘(宮ヵあおい)だけが祖母を純粋に慕い、労るが、もちろん皆それぞれに祖母を愛しており──。樹木の惚けぶりの巧みさは言わずもがな、女優陣の競演やその清楚な装いなど、見どころは多い。筆者は井上の書斎(現存する邸宅で撮影)や避暑地の別荘など、昭和の建築群に瞠目、感銘。
【CDジャーナル 2012年09月号掲載】