Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

2018-09-22から1日間の記事一覧

怪物はささやく

子どもがみな無邪気で天真爛漫だというのは大人の思い込みで、生まれたときから自分の存在理由を疑い、つねに“自分は罰せられるべきだ”と考えている子どもはいる。本作の主人公もそんな少年だ。難病で死に近づきつつある母を想えば想うほど、そのこと自体が…

スパイダーマン:ホームカミング

あれ!? スパイダーマンってもっと陰鬱な話じゃなかったっけ?と一瞬あっけにとられる、何度めかのリブート作。映画としてはマーベル軍団の共有世界に仲間入りしたものの、「アベンジャーズに入るにはまだ早い」と子ども扱いされる少年スパイダーマン。何かに…

しあわせな人生の選択

どこかの国では癌は良い病気だと考えられている、と聞いた。「自分で死ぬ準備ができるから」。本作はまさにそれを具現化した一本。自分の意志で肺癌の治療をやめ、自分の足で歩けるうちに会いたい人に会い、さまざまな方法で別れを告げ(あるいは告げず)、…

おとなの恋の測り方

離婚した夫との関係がギクシャクしているディナーヌが偶然出会ったのは、優しくユーモアがあり、リッチで積極的なアレクサンドル──ただしその身長は136cm! しかし、本人は自分の障碍を気にはしてない。女性の口説きっぷりも堂々としていて、気持ちいいほど…

キングスマン:ゴールデン・サークル

“スタイリッシュだがお気楽”への回帰を目指した英国スパイ映画の2作目。歴史ある秘密組織“キングスマン”が、今回は世界的麻薬組織を敵に回し、米国に同様にあった秘密組織“ステイツマン”と手を組む。英国紳士の気取りを逆手に取ったユーモアや、凝ったつくり…

ゲット・アウト

自分は黒人、彼女は白人。その家族と会うため、青年は郊外の高級住宅街を訪れる。“私の親は人種差別なんかしない、大丈夫”という彼女の言葉とは微妙にズれて、家族や街の人々は過度に親しげで、逆にそこで見かける黒人のメイドらはみな能面を被ったように不…

女神の見えざる手

各業界の利益を守るため、金と策を与えて政治家を操る“ロビイスト”。まだ若いリズはその中でも凄腕として名を挙げ、銃業界から「女性有権者を取り込みたい」と異例の指名依頼を受ける。が、彼女はそれを蹴り、逆に銃規制を推進する弱小NPOからの依頼を受けた…

ウエストワールド

入場料は円換算で450万円ほど、西部劇の世界を模したその高級テーマパークでは、強姦も強盗も殺人もOK。園内に住み繰り返し加虐される者たちは気づいていないのだ、自分たちが実はアンドロイドだということに──! TVドラマながらJ・J・エイブラムスら超ハリ…

アトミック・ブロンド

ベルリンの壁崩壊の前夜、混乱する1989年の東独。その地に潜入している各国スパイの名を網羅したリストをめぐり、英仏米露の特殊機関が静かに激しくうごめきあう。ハイテク化される前の、体当たりの諜報活動は無骨ながらもスタイリッシュ。冷たく乾いた空気…

グレイテスト・ショーマン

娯楽映画の原点回帰。複雑な筋もドンデン返しもなく、ただ一癖二癖ある人間たちが歌い踊り、観るものを圧倒して楽しませる。19世紀に実在したある興行師。フリークスや動物など“低俗な”見世物小屋の主だった彼が、高尚な演劇界にいた若者を相棒に巻き込み、…

あさがくるまえに

まだ眠る恋人をベッドに残してサーフィンに出かけ、事故に遭い、脳死状態になった青年。心臓病を患い、自分が助かるためには他人の心臓、つまり他人の死を待つしかないと逡巡している子持ちの女性。彼らの気持ちは“わざと”蚊帳の外におかれ、移植の準備は淡…

デトロイト

人種差別が色濃く残り、鬱憤を溜めた黒人らによる大規模な暴動が起こっていた1967年のデトロイト。たまたまこの街に興行に訪れていたバンドマンたちが、宿泊先のモーテルで発砲事件を起こしたと誤認され、駆けつけた警官に尋問されていく。警官は白人の若造…

スリー・ビルボード

レイプされ殺された娘のために、警察署長を名指しにして「犯人逮捕はまだなの?」という路上看板を出した母親。だがその署長は街のみなに慕われており、しかもガンで余命数ヶ月。母親は人々の顰蹙を買うが、意に介さない。しかし“本当に憎むべき相手”の見え…

アバウト・レイ 16歳の決断

「ぼくは男だから、ホルモン療法や手術を受けたい」という16歳の“一人娘”に対し悩み戸惑う母、そして「なぜふつうのレズビアンじゃいけないの!?」「手術までして男になりたいの!?」と嘆くレズビアンの祖母。米国でもまだまだ異端であるトランスジェンダーの…

ナチュラルウーマン

南米チリの都会の片隅。昼はウエイトレス、夜はクラブ・シンガーとして働く女マリーナの部屋で、ともにくらしていた男、オルランドが急死した。だが彼女には、恋人の死を悲しむ贅沢さえも与えられない。相手は親子ほどに年が離れていた上、マリーナは元男性…

箱入り息子の恋

メガネに地味顔で照れ屋、文系サブカル女子が今一番憧れるミュージシャン、星野源。その彼を愛でるための女子映画──との前評判だったが、いやあ、良かった。実直で上がり症、極度の人見知りな35歳の童貞(星野)と、資産家の娘で美しい、だが視力を失った女…

中学生円山

『あまちゃん』でクドカンを知ったご婦人方が、間違ってこれを観ませんように。多くの女性にはたぶん理解不能。逆に男性陣は、思い当たる節ありすぎで恥ずかしい。ある団地に住む中学二年生の克也はもちろん童貞、今は“自分フェラチオ”のために体を柔軟化し…

ウルヴァリン:SAMURAI

『X-メン』からスピン・オフした『ウルヴァリン』シリーズ第2作。そもそも超能力を持つはぐれ者集団のX-メンにおいても、不老不死のウルヴァリンはさらにはぐれ者。誰とも群れようとせず、来歴も年齢も不明(前作で南北戦争に参加していることから、少なく…

ローマでアモーレ

ローマの情緒溢れる街並みを舞台としたウディ・アレン監督・脚本・出演の恋愛群像劇。観光にやってきた新婚夫婦やアメリカ人建築家、地元の若いカップル、娼婦や女優の卵など連鎖的に登場人物が増え、最終的には十数人もの老若男女が主人公として登場するが…

ペーパーボーイ 真夏の引力

人種差別が色濃く残る69年のアメリカ南部。一人の死刑囚、その冤罪の可能性を感じて真実を突き止めようとする新聞記者に、まだ若いその弟。囚人の危険なにおいに惹かれ、会わぬうちから婚約者となる女。そこに黒人の同僚やメイドの視点を重ね、多層的な人間…

探偵はBARにいる2

札幌ススキノのバーを根城とする気ままな探偵と、無愛想だが武道の達人の相棒(ただしアルバイト)が、否応なしに事件に巻き込まれていく──東直己の人気小説シリーズの映画化第2弾は、前作よりお色気要素を大幅増量、もちろんアクションや謎解きの要素も手抜…

君と歩く世界

「Ope?(今からは可能?)」という刹那な携帯メールでセックスを重ねる二人。男は粗野な生活から職も妻も失い、非合法の格闘技賭博にだけ居場所を見つける。女は生きることの欠乏感に苛まれ、夜の喧噪の中で男を誘惑し続ける。だが女が仕事中の事故で両足を切…

ビトレイヤー

リドリー・スコット製作総指揮、イギリスの新鋭、エラン・クリービー監督のクライム・サスペンス。数年越しの因縁を持つ刑事と犯罪者が銃を巡って 敵対する中で、自分たちがもっと大きな陰謀の渦中にあることに気づき、互いに協力する——。登場人物が入り組ん…

二郎は鮨の夢を見る

90歳近くになった今も銀座で店に立つ鮨職人、ミシュランが三つ星を与え続けるその仕事ぶりを、アメリカ人監督が丹念に追った。異文化の人間だからこそ、緻密に貪欲に撮影できた食文化の記録。一流の職人の手元、その手業を映像として残したのはまさに功績。…

アイアンマン3

前作『アベンジャーズ』でマーベル・ブランドのスーパー・ヒーローが大集結、内容も神々の国やら宇宙生命体やら人類滅亡やらと盛大に大風呂敷を広げただけに、さて次の手は……と心配したが、何のことはない、アイアンマンの敵はまだ地球にいた。今回の相手は…

40歳からの家族ケーカク

結婚して十数年、二人の娘にも恵まれた。目下の悩みは娘の反抗期と、妻はタバコ、夫は甘物をやめられないこと。やや倦怠期、ややセックスレス。仕事も今イチ。そんなありふれた家族の、年月によるくすみや汚れ、それが夫婦の40歳の誕生パーティ計画をきっか…

世界にひとつのプレイブック

アカデミー主演女優賞受賞、8部門ノミネートの人情ラブ・コメディ。だが万人向けではない。主要人物がみなどこか病んでいるのだ。妻を寝取られた上に家を追い出された男は、躁鬱で突然凶暴になる。事故で夫を亡くした女は、喪失感から誰とでも寝るように。…

HOMELAND / ホームランド シーズン2

人気サスペンスのシーズン2ボックスが早くも登場。イスラム過激派の捕虜となり8年後に生還した主人公は、今や国民的人気の政治家。だが彼は、捕らわれている間の心のよすがとして(あるいは敵の洗脳作戦の一環で)ムスリムに改宗していた。名声が高まるほ…

シュガー・ラッシュ

ある遊技場の片隅に置かれた、30年物のアーケードゲーム機。主人公の大男は、ゲーム内では何でもブチ壊すのが仕事の憎まれ役。でも本当は寂しがり屋で、30年間ずっと孤独に悩んでいた──。ドット絵と一昔前のポリゴンと最新鋭の精密CGでキャラを描き分け、さ…

人生、ブラボー!

しょぼい中年男が、突然大訴訟に巻き込まれる。若き日に小遣い目的で精子バンクに通い詰めた結果、なんと533人もの子が誕生、142人が成長して父親を探していたのだ。男はうろたえつつも、こっそり“子どもたち”の様子を見に行く。サッカーのスター選手。役者…