Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

脱走四万キロ

第二次世界大戦の最中、イギリス軍との闘いの中で被弾し不時着、捕虜となった実在のドイツ空軍のヴェラ大尉の脱走物語。「6ヶ月後には必ず脱走してみせる」と大見得を切った彼は、列車から飛び降り、オランダ兵に化け、凍った川を渡り、なんど失敗しても脱走を試みる。もはや半世紀前、1956年のモノクロ映画なだけあって、筋運びは極めてストレート。意表を突くどんでん返しとか謎解きとかのケレン味はなく、“脱走劇”だけを丹念に描く。が、だからこそストレートに伝わるスリル。ヴェラ大尉は現在でも根強いファンを持つ英雄で、作中でも彼の執念にイギリス兵も内心感服しているように見える。そもそもイギリス映画が敵国ドイツの兵士を主人公にしている時点で、彼のカリスマ性が伺える。

【CDジャーナル 2009年09月号掲載】