Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

アラトリステ

17世紀、衰退しつつある大国スペイン。繰り返される戦争を生き抜いてきた剣士、アラトリステの生涯を描く。戦死した仲間の息子を預かって従者として鍛え、女優と恋に落ち、上流社会の陰謀に巻き込まれる彼は、不器用だが孤高。言葉少ないままにどんな苦難にも己を貫くが──。原作は欧米各国でベストセラーとなった長編歴史小説。スペイン史上最高の制作費を使い、戦闘シーンは壮大で壮絶。一方で静謐なシーンは陽光と陰影のコントラストが美しく、フェルメールの絵画を思わせる。ただし大河ドラマを139分に圧縮したようなもので、歴史や文化の素養がなければ、本作だけで筋を理解することはほぼ不可能。隅々まで楽しみたい人は、原作(日本語訳は5巻まで発行済み)を合わせ読むことを推奨。

【CDジャーナル 2009年09月号掲載】