Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

みんな誰かの愛しい人

プライドとコンプレックス。人はみな、この両極の自意識の間に功名心や諦観、希望などを行き交わせつつ、毎日を暮らしている。2004年カンヌ映画祭脚本賞に輝いた本作が描くのは、実はただそれだけのことだ。だからこその、緩やかで心地よい共感──。わがままな大作家を父に持つ主人公・ロリータは、歌を歌うことで父の関心を得ようとする。太めな体型が気になって、歌以外に自信を持てるものがないのだ。歌を教えるシルヴィアは、売れない作家の夫を支えている。さらに、若くて美人の父親の後妻や、父親の後光が目当てで彼女に近づく人たち──必ずどこかにコンプレックスを抱える人々の、揺れ動く気持ち、それをそのまま描こうとする視線が暖かい。

【CDジャーナル 2005年07月号掲載】