Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

スラムドッグ$ミリオネア

「ファイナル・アンサー?」という決め文句が日本でも話題となった『クイズ$ミリオネア』は、英国発で全世界にライセンスされた大型賞金クイズ番組。そのインド版に挑むことになったのが、スラム出身で学もない一人の青年。最初はみなに嘲笑されていた彼が正解を重ね、史上最多の賞金に挑むことに──。一問正解するごとに映像は過去に戻り、彼の人生が垣間見える。親を失い、孤児として兄と二人、ときにはインチキなことをして逞しく生きていく姿。同じ孤児の少女と出会い、世話を焼く優しさ。長じてからの、その少女への愛。インドの発展する都会と最下層のスラムとの対比が現実感のある映像で力強く伝わり、日本にはないこの国の“格差”と“活力”をしみじみと思い知る。社会の最底辺で生きるための“悪”の要素を兄の側に集約したことで、主人公である弟は“純”かつ“聖”なままで観ていられた。清濁あわせ呑む少女の存在も美しい。09年のアカデミー最多8部門獲得も納得、観て損はない一作。

【CDジャーナル 2009年12月号掲載】