Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

東南角部屋二階の女

二つの意味で“世代から世代への静かな伝承”を感じる映画だ。監督の池田千尋、脚本の大石三知子は、黒沢清らが教鞭を執る東京藝大映像研究科の1期生。かつては映画会社が自ら撮影所を持ち、人材を育成していた。そのシステムが崩壊した今、この研究科は新たな伝承の場として機能している。そしてもう1つの“伝承”は、この物語の主題でもある。親の残した借金に苦しむ青年。突発的に会社を辞めたその後輩。恋も仕事もうまくいない女。行き場をなくした3人が、取り壊し寸前の古アパートに越してきたことから物語は始まる。若い彼らは饒舌に感情を口にし、時に喧嘩もする。一方で、3人の老人も登場。アパートの土地の所有者、彼を世話する小料理屋の女将、その店の常連客。若い3人とは対照的に、老人たちは多くを語らない。当初それに苛立っていた若い世代も、いつしか人生の先輩から、生きるために必要な何かを感じ取っていく──。登場人物はみな、地味でふつうの人々。だからこそ、観る者にも静かに伝わってくるものがある。

【CDジャーナル 2009年07月号掲載】