Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

エイプリルの七面鳥

 親はすべての子を平等に愛せるわけではない──薄々は感じていたけれど、でも“きれい事”の中で育てられていた子供時代には、無意識に否定していた。それがきれい事でしかないというのは、自分が大人になり、まわりが子供を持つようになってから実感した。長女より末っ子の方がかわいいとか、長男には期待しているけれど次男は諦めてるとか──なんだ、やっぱそうなんじゃん。じゃあ自分も、親からそんなに愛されてはいなかったのかもな、なんてぼんやり思ってみたり。

 本作の主人公エイプリルも、それはそれは家族から疎まれている。確かに彼女は素行が悪い。悪すぎて家族との折り合いがつかず、一人離れ、スラム街で黒人の彼氏と一緒に暮らしている。そして彼女の母親、これもキツい。理路整然と自分の長女の欠点を並べ立て、嫌悪感を言葉にするのに躊躇もない。

 だが、そんな嫌われ者の長女が、感謝祭の日に家族をディナーに招待した。“伝統”や“家族”などクソ食らえと言わんばかりだった彼女が、感謝祭伝統の七面鳥の丸焼きを家族に振る舞おうとする……これが家族が全員そろう最後の食事になるかもしれないから。

 彼女の母親は、癌に冒されていたのだ。

 でも気づけば彼女のオーブンは壊れていて、助けを求めたアパートの住人も変な奴ばかりだし、そもそも彼女、料理なんてしたことがない。一方、嫌々ながらに彼女のアパートに向かう家族、これも“きれい事”からはほど遠く、嫌みなほどに優等生ぶっている妹に、どこか抜けている弟、唯一まともに見える父親も、頼りがいのないこと極まりない。

 ダメな人間をダメなままに描いた映画である。みんな欠点があって、投げやりで、不完全。だからこそ、80分の映像の最後の数分間、セリフなしに描かれる家族の姿が、愛おしくて泣けてくる。親は子供を、子供は親を、ちゃんと愛しているものだ──平等にではないけれど、たぶん心から。

【CDジャーナル 2005年05月号掲載】