Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

ゴースト・イン・ザ・シェル

アニメ、小説、ゲームとさまざまな派生作品を生み出してきた95年の士郎正宗のマンガ『攻殻機動隊』のハリウッド流解釈。人工パーツの発達でロボットと人間の境目すら危うくなってきた未来、政府は軍事目的で人間の脳を義体に移植する技術を開発していた──と、実はストーリーはわりとどうでもいい。見るべきは、本腰を入れて映像化した未来の光景やテクノロジー。記憶の入れ替えができれば空想と現実は同じもの、と、そんな感覚さえも巧みに映像化している。題材はもはや古典だが、SF映画としての出来は出色。

【CDジャーナル 2017年09月号掲載】

パッセンジャー

5000人の乗客が巨大宇宙船の中で人工冬眠し、120年をかけて別の惑星への移住を試みる。しかし何かの故障か、予定より90年も早く一人の男が、続いてまた一人の若い女が目を覚ましてしまう。このままでは二人きり、船の中で残り数十年の人生を終えることに──! 孤独と絶望、諦観、そして二人の関係性の変化。SFとしては決して新奇な題材ではないが(藤子・F・不二雄なら30ページのマンガにしそう)、それがちゃんと魅力的に見えるのは、恋愛モノとして上出来だから。そして宇宙船のデザインがカッコいい!

【CDジャーナル 2017年08月号掲載】

SING / シング

3DCGでデフォルメされた、どこか人間くさい動物たちのミュージック・コメディ。知ってる歌が次々出てくる! 破産寸前の劇場支配人が、素人シンガーたちを集めて再起を図るものの、手違いと勘違いの連続で──。ゲームセンターの“ガチャポン”を思い出した。いろいろな流行歌をチャチにしてカプセルに詰め、次に何が出てくるかわからない、音楽のガチャポン。チープだけど楽しい。日本語版の歌唱シーンも本家版に遜色ないなあと思ったら、歌はMISIA大橋卓弥スキマスイッチ)、大地真央と、豪華メンツを揃えてた。

【CDジャーナル 2017年08月号掲載】

マリアンヌ

戦時中のモロッコで偽装夫婦となった二人の諜報員が、ナチス要人の暗殺という使命を果たして生き延び、互いに惹かれ、逃れ出たロンドンで本物の夫婦となる。空襲のさなか、愛娘も授かった。しかしその幸福は、夫が上層部から受けた通告で崩れかける──「君の妻は二重スパイの疑いがある。もしそうなら、殺せ」。何より主演の二人が美しい。夫役にブラピ、妻は『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』のM・コティヤール。抑制の効いた官能描写も切なく艷やか。ロマンスとしてもサスペンスとしても成立している、丁寧な良作。

【CDジャーナル 2017年07月号掲載】

アイヒマンの後継者

何も知らない被験者に他人に電気ショックを与える課題を出し、“良識ある人間がなぜ残虐行為に走るのか”“人はいかに権威に服従するか”を検証する、60年代の有名な社会心理学の実験。そのほか、今では倫理的に許されそうもない実験の数々をおりまぜ、ある科学者の人生を描く。もともとは“ナチスホロコーストはなぜ起こったか”という疑問に対しての純粋な科学的探求だが、やはりどの場面も痛々しい。後味はけっして良くないものの、これも人間社会を紐解くための必要悪というものか。

【CDジャーナル 2017年07月号掲載】

手紙は憶えている

目を覚ますたびに妻の姿を探し、もう亡くなっていることを知らされて落胆する──認知症を患って施設で暮らす90歳の老人。ある日彼は友人に一通の手紙を託された(手紙なら、記憶を失ってもまた思い出せる)。記されていたのは、彼らがアウシュビッツで家族を殺された過去と、今も身分を偽って生きているその犯人。人生の締めくくりを意識しつつ、老人は静かな復讐の旅に出る──。復讐の残酷さ、という言葉を意識してラストまで観てほしい。描きつくされたかと思われていたホロコーストの、意外で新たな一面が見える。

【CDジャーナル 2017年06月号掲載】

マダム・フローレンス! 夢見るふたり

メリル・ストリープヒュー・グラント、名優2人が小喜劇に挑む。オペラの殿堂カーネギーホールで“伝説の歌姫”となった実在の貴婦人、マダム・フローレンス。その歌声はどこか不安定で、音程とリズムに難があり、声域も狭く──要するに彼女はド音痴だった!(←これが“伝説”の理由) それでも彼女を持ち上げる周囲と、その賞賛を疑わない本人。滑稽を通り越して愛おしい。ゴールデングローブ賞主要4部門でも候補となった小粒だがバランスの良い一品、監督は『危険な関係』『あなたを抱きしめる日まで』のS・フリアーズ。

【CDジャーナル 2017年06月号掲載】