悲しみなんて何の役にも立たないと思っていた。/ 槇原敬之
前作『LIFE IN DOWNTOWN』で自身の故郷や幼少期の泥臭さを振り返った槇原、1年9ヶ月ぶりの本作では“音楽に対する自分の姿勢”を原点回帰で確認しているようだ。不安げな独唱から力強い合唱に展開していく⑩やシンセとボイス・エフェクタで遊びまくっている⑦、逆にアコースティックの響きが艶やかな⑥など、音楽職人としての懐の広さを見せつつ、“日常の小さな情景”を拾い上げて歌詞にする繊細さも健在。でも最近の槇原の歌、聴いてから胸に馴染むまで時間がかかるようになった。近年槇原は音や詞より一段下の層に“よりよく生きたい”という想いを込めるようになっており(仏教、特に日蓮上人に共鳴しているとか)、この隠しメッセージが遅効性だからだろう。それでも“説教臭い”と思わせず、娯楽商品として成立させているのはさすがの腕っ節。“悲しさ”を歌うアルバムのジャケットを、おちゃらけてクレイジーキャッツ風にするヤツなんですよ、マッキーは。
【CDジャーナル 2007年12月号掲載】