Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

プルーフ・オブ・マイ・ライフ

よく“紙一重”と表現されるように、度を過ぎた天才は狂気を内包している。人が羨む才能も、本人にとっては幸せなのかどうか──そんな戸惑いを描く本作は、『恋に落ちたシェイクスピア』の監督と主演女優が再び組んで作った戯曲を映画化したもの。若く美しいがどこか屈折したキャサリンは、父親の世話をするためだけに生きていた。父は若くして名声を得た天才数学者だったが、今は精神を病んでいる。父の頭脳を受け継いでいることを薄々自覚しつつ、同時にその病も遺伝しているのではないかと恐れ、彼女はすべてに臆病になっていた。対照的なのが“常識的な秀才”の長姉。その対比が巧みで、天才の孤独感が一層際だつ。垣間見える心の細波が美しい。

【CDジャーナル 2006年10月号掲載】