Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

海を飛ぶ夢

26年前、海に飛び込んだときに首を痛め、全身の自由を奪われてしまった主人公。支えてくれる家族や友人には常に穏やかな笑顔でこたえ、ベッドの上で淡々とした生活を送る彼が切望するのは、“尊厳のある死”だった。だが、指一本さえ動かせない彼は、自死を選ぶにも人の手を借りねばならない。それを阻むのは周囲の人間の無知や無理解、上っ面の宗教心。彼は叫ぶ、“生きることは権利であって、義務じゃない”──重いはずのテーマがすんなりと胸に入ってくるのは、彼を取り巻く自然の景色があまりに美しいから。宣伝文句では“感動ラブストーリー”と銘打っているが、ここで描かれるのは男女の単純な愛ではなく、もっと広い、人と人との間にある愛だ。

【CDジャーナル 2005年12月号掲載】