Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

父と暮せば

「生き残ってしまったこと」の負い目──美津江は、生き残っていた。1948年夏、広島の街を原爆の黒い雲が覆った3年後のことである。死んでしまった人を思い、「自分は幸せになってはいけない」と念じるように言いながら、ただひっそりと暮らす美津江。そこに現れたのが、彼女に好意を寄せる一人の青年と、そしてあの日死んだはずの父・竹造だった。生き残った娘と死んだ父、その間にある根の深い苦悩が、穏やかで、時に激しい二人芝居として描き出される。筆者は広島生まれで、原爆についての話は飽きるほど聞いてきた。だからこの物語も、最初はヘタクソな広島弁ばかりが気になっていた──が、気がつけばボロボロと泣いていた。静かな秀作である。

【CDジャーナル 2005年08月号掲載】