Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

湯を沸かすほどの熱い愛

一年前に家出した夫を待ち続け、娘とふたり静かにくらす妻が、突然末期ガンの宣告を受ける。いくつかの“死ぬまでにやるべきこと”を決めて実行する彼女と、さまざまな人との出会いや再会──。監督は自主映画『チチを撮りに』で国際的な評価を得た中野量太。物…

永い言い訳

すでに邦画界での評価を固めた西川美和が執筆、直木賞候補となった小説をみずからの脚本・監督で映画化。人としても夫としても最低の部類に入る小説家の男が主人公であるあたり、師匠筋に当たる是枝裕和監督の『海よりもまだ深く』と共通する。が、是枝が“こ…

92歳のパリジェンヌ

元フランス首相の母親で、尊厳死を求めて戦った女性の実話が原作。温かい家族に恵まれつつも、老いによって“もう自分でできなくなったこと”をひとつずつ数え、「まだ気力のあるうちに人生を終わらせたい」という92歳の老婦人。若い頃から社会活動家として強…

ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期

ちょっとダメなアラサー女子を描いて全世界の女性を共感の渦に巻き込んだ初作から早15年。11年ぶりのシリーズ3作目。気がつけば彼女も43歳、いまだ独身だ。ひとりで寂しい誕生日を迎えたかと思いきや、偶然出会ったハンサムなIT実業家と、忘れられない元彼の…

お父さんと伊藤さん

フリーターの娘(34歳)とその彼氏(バツイチ54歳)。2人が暮らす古いアパートに、突然娘の父親(74歳)が転がり込んでくる。ちょうど20歳ずつ離れた3人の共同生活は当然ぎこちなく小さな衝突だらけ――。『百万円と苦虫女』のタナダユキ監督が中澤日菜子の同…

ハドソン川の奇跡

2009年1月、乗員・乗客155人を乗せたエアバスがNYの空港を発った直後、両エンジンが大破、制御不能に。墜落と全員の死亡さえ覚悟された中、機長は独断でハドソン川への緊急着水を決行、そこで奇跡が起こった──と、ここまでは日本でも大きく報じられた美談。…

オマールの壁

未だ混乱の最中にあり、ただ穏やかな暮らしを望むためだけにも銃や暴力が必要な中東・パレスチナ。親友の妹を想いつつ、パン作りに精を出して真面目に生きている若者ですら、壁に囲まれたその街から逃れ出ることはできない。誰かを信じると裏切られ、信じな…

ミモザの島に消えた母

西フランスの慎ましく美しい景色の中にあった、おぞましい人間の業。人生も後半にさしかかった男が、幼い頃に亡くした母を想う。母はただ「海で溺れて死んだ」とだけ聞かされ育った。躊躇する妹を巻き込み、故郷の島に戻ってゆっくりと過去を掘り起こす男。…

ニュースの真相

今や“歴代最低の大統領”とも評されるW・ブッシュ。二期目を目指し選挙戦に挑んでいた2004年、CBSニュースの報道陣が彼の軍歴詐称疑惑、コネによる兵役逃れをスクープした。事実であれば、国民の反発は必至。追い詰めるジャーナリストたちの気迫、しかし彼ら…

ヤング・アダルト・ニューヨーク

『イカとクジラ』のノア・バームバックが監督・脚本のシニカル・コメディ。売れないドキュメンタリー監督の夫と、夫よりは腕の立つプロデューサーの妻。子は授からなかったもののセックスもあり、それなりに充実した日々を送っている(つもりの)四十代のふ…

X-MEN:アポカリプス

シリーズ物につきものの“ムチャやっちゃった過去作とどう折り合いをつけるか問題”は前作『フューチャー&パスト』で過去をリセットしたことによりクリア、舞台は“人類とミュータントが共存する1980年代”に(時代感の再現がお見事)。とはいえ隠された差別は残…

或る終焉

『父の秘密』で世界的な評価を得たメキシコの新鋭、マイケル・フランコ監督の新作。終末期患者のケアと看取りを繰り返す看護師(ティム・ロス)。息子の死をきっかけに家族と疎遠になっている彼は、患者と親密な関係を築くことを心の拠りどころにしていたが─…

セトウツミ

わはは、なんでこんなもん作ろうと思うてんやろ。天然で何事にもやる気なさげな瀬戸と、秀才で何を考えているか見えてこない内海、大阪は堺市の男子高校生ふたりの放課後ヒマつぶしトーク……それだけで終始一貫75分。川縁に座り体温低めで続く意味のない会話…

シークレット・アイズ

犯人は特定されたのに、政治的な理由から封印された13年前の殺人事件。新たな手がかりが浮かび、娘を殺された女と元同僚の男女がFBIで再会するが──。アカデミー外国語賞を受賞したアルゼンチンのサスペンス映画『瞳の奥の秘密』をハリウッド流豪華キャストで…

シビル・ウォー / キャプテン・アメリカ

タイトルこそ『キャプテン・アメリカ』だが実質的にはヒーロー総出演の『アベンジャーズ』で、その内部分裂(特にアイアンマンとの軋轢)を描く。今回から軍陣に加わったちょっと間抜けなアントマン、ソニーとの権利関係を乗り越えて登場する少年スパイダー…

10 クローバーフィールド・レーン

交通事故に遭った女が目覚めたのは閉ざされた地下シェルターの一室。脚は鎖で壁に繋がれ、ほかにいるのは見知らぬ男二人だけ。「異星人が攻めてきた」という男の言葉は、虚言? 狂信? 真実? 『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で壮大な宇宙戦争史の一端…

モヒカン故郷に帰る

東京でデス・メタルバンドを組んでいた男が、恋人の妊娠をきっかけに故郷・広島の小島に帰る。広島といえば矢沢永吉、広島といえばカープ。島に住む両親の熱狂ぶりが、瀬戸内の静かな情景とアンバランスでおかしい。柄本明やもたいまさこという芸達者の中で…

ズートピア

肉食・草食、大型・小型の動物たちがともにくらす大都会“ズートピア”。夢を信じる新米ウサギ婦警と、夢を捨てたキツネの詐欺師が、なぜかタッグを組んで街中を走り回ることに──。現代社会のあれこれを戯画化して盛り込んでいるのが楽しい。“努力し続ければ夢…

さざなみ

『ウィークエンド』で青年同士の一夜の愛の切なさと絆を描いたアンドリュー・ヘイ監督が、本作では長年連れ添った老夫妻の愛の姿を静かに表現。結婚45周年パーティの5日前、夫の元に一通の手紙が届く。夫は“昔のこと”を回顧する。妻の胸の内に小さなささくれ…

人生は小説よりも奇なり

39年間連れ添った爺ちゃん二人が、周囲の祝福の中、結婚した。同性婚もここまで社会に馴染んでいるのか米国は──と思えばやはりそうでもなく、カトリック系の学校に勤めていた片方がそれで職を失い、ついで家も失う。とりあえず甥や友人の家で別々に居候を始…

マン・アップ! 60億分の1のサイテーな恋のはじまり

馬鹿をやらせたら天才的なサイモン・ペッグが主演・脚本・製作総指揮の、たった一夜のラヴ・コメディ。いろいろとこじらせてくすぶっている34の独身女と40のバツ一男が、相手を取り違えたまま初デートして、一瞬は意気投合するものの数時間後には罵り合い、…

ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります

想い、偲び、察する──自己主張の国アメリカには不似合いな言葉が思い浮かぶ。老い始めた夫婦(モーガン・フリーマン&ダイアン・キートン)が40年間を過ごした5階建てのアパートメントは、見晴らしはいいが階段がきつい。やっと売却を決意し、内覧会を開く夫…

幸せをつかむ歌

メリル・ストリープ物にハズレなし。彼女の経歴の中では小粒な扱いだろうけれど。いまだ80年代を引きずる破産寸前のロック・シンガーが、娘の離婚問題と自殺未遂をきっかけに、自分が捨てた昔の家族と再会し──。己に正直すぎる生き方の代償と結実。かのニー…

エージェント・ウルトラ

ザ・中二病映画。何もできずダラダラと日々を送る若者マイクは、実はあまりの危険さにその能力と記憶を封印されたCIAの殺戮者だった! 50〜60年代のCIAの洗脳実験“MKウルトラ計画”をモチーフに、周囲の日用品を即興で利用したアクションで魅せる。主演は『ソ…

ハッピーエンドの選び方

イスラエルの老人ホームで暮らす、手先の器用な発明家。妻は、認知症の兆候に怯えつつも敬遠な信仰心を持ち続けている。また、末期ガンで苦しむ男と、彼を苦しませたくない妻。奇妙な三角関係を秘密にしているカップル。元獣医や元警官。彼らが自発的に、あ…

スティーブ・ジョブズ

ジョブズが携帯音楽プレイヤーを出すと聞いたとき、古くからのAppleファンでさえ首をかしげたものだ。既存製品のスタイリッシュな改良品に過ぎなかったからだ。そのiPodがのちに世界を席巻するiPhoneへの布石だったのは、今では皆が知ること。本作はそんな彼…

オデッセイ

“近未来SF”というより“近未来に起こった事件を事後にまとめた科学ドキュメンタリー”として観るのがよい。そこには陰謀も裏切りもドンデン返しもない。事故で火星に置き去りにされた植物学者が、限られた資材・資源・知識を駆使してジャガイモを育て、地球と…

マルガリータで乾杯を!

“障害者の性”はこの十年ほどで日本でもようやく議論されるようになってきたテーマ。脳性麻痺で言葉も体も不自由な19歳の少女が、歌を作り、恋をし、セックスをする。その最大の理解者は、母親。インドから米国への留学にも賛成、自らも付き添うほど。が、そ…

マイ・ファニー・レディ

1973年、33歳の若さで名作『ペーパー・ムーン』を世に出したボグダノヴィッチ監督、その後この紙幅では書き表せない数奇な人生を歩み、13年ぶりに監督したのが本作(脚本も)。高級娼婦が出自であることをあっけらかんと話す新進女優の回顧の形で、演劇・映…

007 スペクター

『007』シリーズの24作目、6代目ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグ作品としては4作目。「00部門は時代遅れで廃止すべき」とする堅物のMI5新責任者のせいで孤立無援に陥る中、メキシコ、ローマ、ロンドン、モロッコ、東京、南アと目まぐるしく動きなが…