Shota's Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

上出来の韓流コメディ・アクション

いささか残念な面々が集まった麻薬捜査班。他班に出し抜かれた挽回にと、悪党組織の真向かいのフライドチキン店を買い取り常時監視を企むが──それぞれ意外な才能を発揮してしまい、チキン店は行列の大繁盛に!
『過速スキャンダル』『サニー永遠の仲間たち』の脚色イ氏が初監督。
閉店後の捜査反省会で「タマネギ80kg、ニンニク500個剥いてみろ!」とブチ切れる捜査官に失笑。
上出来の韓流コメディ・アクション。

黒人として生きることの閉塞感、見せかけの平等社会への違和感

戦争中の母国から裕福な白人夫婦に引き取られた黒人高校生のルースは、学業・スポーツ・討論、いずれも秀でた“学校のスター”。
彼が“名誉白人”として扱われていることは、たぶん本人も気づいていない。
だが、ある事件をきっかけに“彼はじつは危険な思想を内に秘めているのではないか”と、幸せだったはずの親子の断絶が始まる。
彼の中ではまだ萌芽でしかない、黒人として生きることの閉塞感、見せかけの平等社会への違和感を巧妙に描いた。

欧州人の気取りと、その皮一枚下にある人間味

フランス流のエスプリを効かせた舞台が欧州中で好評となり映画化、当事国(として笑われる)ドイツでも150万人動員の大ヒットに。
出産間近のあるご婦人を祝いに集まったのは、知性あふれる5人の男女。シニカルで気の効いた、軽快な会話が続く中、我が子の名をあの禁忌名“アドルフ”にすると告白されたみなは、慌ててなんとか翻意させようとする。が、その懸命さの中でつい自分の本性を──。
欧州人の気取りと、その皮一枚下にある人間味を感じられる小品。

“剣と龍と魔法モノ”をピクサー流に調理したら、美味しい、良質なコメディに

痩せて気弱な弟と“古代魔術オタク”でハチャメチャな兄。
亡き父が遺した魔術で父を1日だけ蘇らせようとするが、生き返ったのは下から半分だけ!
兄弟は、完全再生に必要な地図や剣や石を探して無茶な冒険に出る。
“剣と龍と魔法モノ”をピクサー流に調理したら、美味しい、良質なコメディに仕上がった。
子どもたちが世の中のルールから開放され、魔法のルールに集中できる爽快感。
いわゆる“空想動物”の苦笑を誘う造形もサイコー。

「元彼・元カノ」より一層深く濃い「元彼・元彼」の関係と軋轢

青年期をゲイ / バイとして過ごし、同性との恋愛やセックスを重ねた後、女性と結婚する人は少なくない。
それを虚無と捉え、あえて都会から山村に移り一人で暮らしていた若者を、かつて恋人だった男が訪ねてくる。幼い一人娘を連れて。
女なんかと結婚してたのか──若者の狼狽。
男は娘の親権問題で疲れ果てていた。村は彼らを温かく迎えた。若者もいつしか少女と馴染んでいった。
が、男同士で不意のキスをしているのを娘に見られ、事態は急変していく……。

【CDジャーナル 2020年冬月号掲載】

米露、敵対するはずの潜水艦船員たちのヒリヒリとした感覚。

米ロ、敵対する二国の潜水艦の一方が深海で事故に巻き込まれる。
これは罠か!?
安全な地上にいる役人たちからの指令と、“人生の大半を水の中で過ごしてきた艦員たち”の“勘”やヒリヒリとした“感覚”、国を超えた“同胞的な想い”──ボタンひとつで核戦争が始まる可能性もある。
何もせずに、ただ死んでいく手もある。
裏にはロシア軍部が起こしたクーデーターがあることも、徐々に分かってくる。
比喩でなく“息詰まる”感覚に翻弄されるままの122分間。

【CDジャーナル 2020年冬月号掲載】

困難にきちんと対峙しようとする、未熟すぎてそれしか術を知らない少女たち

互いの父と母が不倫関係にある二人の女子高校生。
一時は校内で取っ組み合いのケンカをするほどの険悪さだったが、不倫の母の妊娠・出産で双方にとっての“義理の弟”が生まれたことを機に、その関係は徐々に変化していく。
その場の快楽だけを求め、困難に対面するのをとことん避けようとする大人たち。
きちんと対峙しようとする、未熟すぎてそれしか術を知らない少女ら。
さまざまな痛みと悼みを胸に押し込め、はしゃいで笑顔をみせる少女たちが哀しい。

【CDジャーナル 2020年冬月号掲載】