シークレット・ヴォイス
表舞台から遠ざかり、生活にも困窮し始めた往年の歌姫リラ。
復活コンサートを目前に控えたある日、海岸で倒れているのを見つかった彼女は、自分の名前も、歌を歌うことも忘れていた。
彼女を支えるマネージャーは、彼女を崇拝して歌も踊りも完コピしている女性を見つけ出し──。
物語が静かに進む中、コピーがコピーをコピーすることが重ねられ、何がオリジナルなのかを見失う。
そもそも主人公は、自分が主人公であることを拒否している。
主題とは別に、物語の裏側に読み取れる2組の母娘の冷然とした愛憎関係が怖い。
【CDジャーナル 2019年04月号掲載】
クワイエット・プレイス
冒頭からしばらく、音のないシーンが続く。
音に反応して襲ってくる“何か”から逃れるため、主人公一家は地下に潜り、手話で生活しているからだ。
しかしその“何か”は、全編を通してほとんど姿を現さない。
その正体や由来が説明されることもないまま、観客は放置される。
世界は“何か”によって荒廃しているらしい──人間にとってもっとも恐ろしいものは、“正体が分からない何か”だということだけが分かる。
この映画自体が何かの実験なのか、我々を試しているのか、という戸惑いの中、純度の高い“怖さ”だけが迫り来る。
【CDジャーナル 2019年02・03月合併号掲載】
インクレディブル・ファミリー
“いろんなスーパーヒーローが実在したらどんなにハタ迷惑か”というシニカルな自虐をまずは土台に築いておいて、あっという間にそれをバリバリと切り崩し、観客を惹き込んでしまう――ピクサー、やっぱり完全勝利。スーパーヒーロー一家を描く大ヒットアニメの続編。
前作でチラ見せしたままお預けにされていた赤ん坊、ジャック・ジャックも大暴れ、ザコのスーパーヒーローたちもそれぞれ魅せるし笑わせる。
レトロ・フューチャーな世界造形は手が込んでいるし、大人向けのメッセージもきっちり織り込んでいる。もう、感服です。
【CDジャーナル 2019年02・03月合併号掲載】